第145話 観衆の居場所

「それじゃあBチーム、スタートするから並んでくれ」


『はい!!』



 監督の指示に従い、俺達はスタートラインに並んだ。

 俺の横には昨日と同じく司が立っている。



「それじゃあスタートします。よーーーい、スタート」



 茉莉の合図に従い、俺達は湖の周りを走る。

 俺と司を先頭にして出来た10人の隊列は、予定通りのペースで1kmを通過した。



「(結衣達が泊まっている宿舎は確かあそこだよな)」



 結衣達が見ていると思われる場所にもうすぐつく。

 彼女達がどこで俺達の練習を見ているか探すけど、結衣達の姿はない。



「(茉莉がここにいるって言ってたのに、結衣達がいない!?)」



 何度も宿舎の方を横目で確認するが、結衣達の姿は見当たらない。

 どうやら彼女達はここにはいないらしい。



「「(一体みんなどこで俺達を見ているんだ?)」



 もうすぐ湖を1周するけど、一向に結衣達の姿が見当たらない。

 彼女達は一体どこで練習を見ているのだろう。



「(どこにいるかと思ったら、こんな所にいたのか)」



 俺が結衣達を見つけたのは、この前いたガラス細工店の前である。

 その近くにあるサイクリングショップの前に彼女達はいた。



「(相変わらず結衣はぼーーーっとしてるな)」



 紺野先輩達に紛れて結衣は静かに俺達が走っているのを見守っている。

 もしかしたら今俺が彼女達の前を通り過ぎたこともわかってないのかもしれない。



「(でも結衣が見ている手前、下手に集団から離れられない)」



 もうすぐ1周目が終わろうとしている所で、先頭を走るペースメーカーが変わる。

 先頭にいた俺達は前を譲り、そのまま最後尾へとやって来た。



「俊介」


「何だよ?」


「茅野達が俺達の事を見てたな」


「何だ。司も知ってたのか」


「もちろん。これはいよいよ手が抜けくなってきたなぞ」


「驚いた。司はいつも手を抜いていたのか」


「そんなわけないだろう。俺はいつでも本気でやってるよ」


「だよな」



 司に限って手を抜くなんて事はないだろう。

 いつでもどこでも全力を出し尽くすのが、司のいい所でもある。



「(それにしても、今日は周りの雰囲気がいつもと違うな)」



 最終日だからなのか、走っている人達全員がピリピリしている。

 そのせいでいつもより緊張感が生まれ、ペースを守って走っている時も気が抜けない。



「司」


「何だよ」


「俺、今日こそは司に負けないからな」


「おう! どっちが早いか決着をつけようぜ」



 隣でにやりと笑う司から視線を外して、俺は出来るだけ余裕を持って集団について行った。


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