第144話 練習前 最後のひと時


 次の日、朝食を食べ終えた俺は練習場所となるスタート地点に向かう為、アップがてら湖を走っていた。

 俺の隣には司が走っており、後ろには茉莉が自転車に乗ってついてくる。



「今日で合宿も最後だな」


「あぁ」


「ここ数日間ですけど、俊介先輩と一緒に練習出来て楽しかったです」


「それな」



 今まで当たり前のように一緒にいたけど、司と茉莉と練習するのも今日が最後になる。

 あれだけ早く終われと思っていた合宿もこうなると少々寂しい。

 出来ればもう少し2人と一緒にいたかった。



「俺も中学時代を思い出せて楽しかったよ。もう少し2人と一緒にいたかったな」


「「えっ!?」」


「茉莉と司は何でそんな驚いた顔をしているんだよ? 俺って今何か変なこと言った?」


「言ったに決まってるだろう」


「あのツンデレで有名な俊介先輩が、素直に楽しかったっていうと思わなかったので驚きました」


「お前は俺を何だと思ってるんだよ? 俺だって楽しかったら楽しかったって、素直に言うぞ」



 今まで2人が俺の事をどう思っていたか、よくわかった。

 俺をどこかの漫画のヒロインのように思っていたなんて、何だか悲しくなる。



「でも、中学時代はもっと素直じゃなかったですよ。どちらかと言うと、もっとトゲトゲしていたような‥‥‥」


「茉莉、それぐらいでいいだろう」


「司さん!?」


「俊介が素直になったことは、俺達にとっても喜ばしいことじゃないか」


「確かにそうですね。司さんの言う通りです」


「一応聞くけど、昔の俺ってそんなに素直じゃなかったの?」


「「そう」だよ」ですよ」


「2人共俺の話題になると息ぴったりだな」



 ついでに結衣の話題について話す時も、2人の息は合っている。

 こういう所を見ると、2人が付き合ったのも必然だろう。



「だって中学時代の俊介先輩って、何かある度にいつも文句ばかり言っていた気がします」


「それで一通り文句を言い終えた後必ず同意するんだけど、全部やれやれって感じでやるんだよな」


「一昔前の漫画に出てくる、面倒くさがり系主人公ですよね」


「だよな。そういうのは漫画だけにしてほしかったよ」



 どうやら中学時代の俺は相当ひねくれていたらしい。

 自分ではそんな自覚はなかったので、表情には出さないけど内心では結構へこんでいる。



「そういえば中学時代の事を話していて思い出しましたけど、今日は結衣先輩が練習を見学するらしいですよ」


「えっ!? 結衣達があそこまで来るの!?」


「いえ。泊っているコテージの前で俊介先輩達の練習を観戦するそうです」


「そうか。それならよかった」



 正直昨日のように集合地点に押しかけられたら俺も困ってしまう。

 だから自分達の所で見ていてくれてよかった。



「これで今日は負けられなくなったな」


「悪いが俊介、今日も俺が勝たせてもらうぞ」


「そうはさせない。結衣達が俺の練習を見ているんだ。格好悪い所なんて、見せられるわけないだろう」



 それこそ昨日の夜練習みたいなところを見せたら、結衣に幻滅されてしまう。

 そうならない為にも、今日の練習は何が何でも司に勝ちたい。



「珍しく俊介先輩がやる気ですね」


「俺はいつでもやる気だけはあるよ」


「そうこなくっちゃ。俄然今日の練習が楽しみになってきた」



 やる気をみなぎらせる司達と共に、スタート地点へと向かう。

 スタート地点に着くと、既にバスはついており各チームの人達がストレッチをしながら、練習開始の合図を待っていた。

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