第27話 新たな刺客
「葉月!! お前は何でこんな所に入ったんだよ!!」
「そんなの知らないよ!! 僕だってテニス部の部室があんな所にあるなんて初めて知ったんだから、僕は悪くないよ!!」
テニス部の部室に突撃した俺達は、親衛隊だけでなくテニス部からも追いかけられていた。
俺達の後方では女子部員達がテニスラケットやテニスボールを持ち、俺達の事を狙っている。
「俊介、あの人達が持っている小型の機械は何なの?」
「あれはテニスボールを打ち出す小型の打ち出し器だ」
「へぇ~~、テニス部ってそんなハイテクな物も持ってるんだ。凄いね」
「感心している場合か!!! あれを持っているってことは、正確にボールを打ち出せるってことで‥‥‥」
『風見!! 小谷松君!! 覚悟!!』
俺の予想通り、俺達の背後からテニスボールが乱れ飛ぶ。
葉月は背中と後頭部に何発かボールが当たっていたけど、俺は後ろを見ながら器用にテニス部の攻撃を避けていた。
「いてててて、テニス部も無茶苦茶な攻撃をしてくるね」
「おい!! なんとかしろよ葉月!! このままじゃ俺達テニス部の連中に殺されるぞ!!」
「俊介、さすがにその例えは飛躍しすぎじゃない?」
「妥当な意見だろうが!! あいつ等をよく見て見ろよ!! 般若のような顔をしているぞ!!」
これは比喩でも何でもない。怒り狂う彼女達が本当に般若のような表情をしているから困る。
先程までの可愛い顔はどこに消えてしまったのか、親の敵を見るような視線を彼女達から向けられている。
『待て!! 乙女の敵!! 大人しく捕まって私達の的になれ!!』
「そう言われて止まる奴がいるか!!」
俺達が話している間にも、ジャージに着替えた女子テニス部員がどんどん増えていき、俺達の背後に迫ってくる。
先程の青白い顔が嘘のように、真っ赤な顔をした女性達が俺達の事を追いかけて来た。
「前門の虎、後門の狼とはこのことだな」
「どういう意味?」
「お前はわからなくてもいい!! とにかく今は全力で走れ!!」
親衛隊だけでなくテニス部からも逃げなくてはならないこの状況。
どちらに捕まっても地獄が待っている。いや、こんなことになるなら親衛隊の連中に捕まった方がまだましなのかもしれない。
「こんなことになるなら、テニス部に投降して楽になった方がいいのかな?」
「馬鹿野郎!! テニス部に捕まるのが1番ヤバいだろう!!」
「何で? 親衛隊の人達よりも大切に扱ってくれそうだけど?」
「逆だよ、逆!! 親衛隊の連中は加減という物を知っているけど、あいつ等はそれがわからないだろう!!」
「わからないからどうなの?」
「わからないからこそ捕まったら何をされるか予想できないんだよ!! あいつ等に捕まってしこたま拷問されるのはいいけど、そのまま救急車に乗せられて病院送りになったらどうするつもりだよ!! 俺は責任を取れないぞ!!」
これがテニス部に捕まった後、俺が1番懸念していることである。これが親衛隊の連中だったら、俺達を痛めつけた後縄で縛り、どこかに吊るされるぐらいで済むだろう。
だけどテニス部に関しては何をされるかわからない。最悪加減を間違えて、大怪我をさせられたらたまったものじゃない。
「(全く、なんで俺はこんなのんきな葉月を昇降口まで連れて行かないといけないんだよ)」
茅野の為とはいえ、正直気乗りがしない。手錠がなければ真っ先にあいつの事を捨てて逃げていただろう。
「(でも、そうすると茅野が悲しむよな)」
葉月がいない状態で昇降口にたどり着いても、茅野が悲しむだけだ。
それでは俺がここまで頑張っている意味がない。
「(茅野の悲しむ顔だけは見たくない)」
それだけは絶対にやってはいけないことだ。そうなるぐらいなら、俺は葉月と一緒に心中する。
「仕方がないから、頑張って昇降口まで送り届けるか」
「俊介? 何を送り届けるの?」
「あ~~、お前は気にしなくていい。それよりも今はテニス部から逃げ切る事だけを考えろ」
「わかった!」
「(やっぱり葉月は単純だから、1つの物事に集中させた方がいいな)」
そうしないとさっきのようなミスが多発するので、俺は葉月に対してそのような指示を与えた。
現に俺の考えは功を奏しているようで、先程よりもスムーズに追手から逃げられている。
「ねぇ、俊介」
「何だよ、葉月」
「何で僕達はテニス部にまで追われてるの?」
「全部お前のせいだろうが!!」
大きな声で叫びながらもテニス部に捕まらないように、急いで階段を駆け下りる。
階段を駆け下りて一気に昇降口まで行こうとすると、今度は親衛隊の連中が踊り場に待ち伏せていた。
『いたぞ!! 風見と小谷松だ!!』
『早く2人を捕まえろ!! そして池に放り込むんで魚のエサにしてしまえ!!』
『今日はスワンボートの貸し出しをしていたから沖に流せるぞ!!』
『それだ!! 魚のエサにも出来る!!』
下から物騒な声が聞こえてきたので、俺は慌てて進行方向を変えた。
上からはテニス部下からは親衛隊の連中が追ってくるこの絶望的な状況の中、俺達はどうしたら昇降口までたどり着くことができるのだろうか。
「何で僕がこんな苦労をしないといけないんだろう」
「お前が言うな!!」
葉月にツッコミを入れながら、俺達は廊下を駆け抜ける。
親衛隊とテニス部に追われながら、校舎内を必死に逃げ回るのだった。
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