第26話 学校からの逃走劇
「ふごっ!?」
「よし!! なんとか教室から脱出できたな!!」
教室にいる敵を力の限り殴り倒した俺は、転がるように廊下へと飛び出した。
俺の隣では壁に頭をぶつけた葉月が逆さまの状態で呻き声をあげている。
『ちっ、逃がしたか!!』
『まだ廊下にいるはずだ!! 奴等を捕まえろ!!』
「やばっ!? おい、葉月!! 早く立て!! 逃げるぞ!!」
「痛ててててて。俊介、もっと丁寧に僕を扱ってよ」
「うるせぇ!! 誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!!」
俺は右手につながれた手錠を起き上がった葉月に見せた。
「こんな危ない物を持っているなんて、本当に親衛隊の人達って野蛮だよね」
「野蛮とかそういう言葉で片づけられる問題じゃないんだよ!! そもそもこんな危険な物を持ってるのがおかしいんだ!!」
なんだよ手錠って。この学校には警察官なんていないのに、こんなものを一般の高校生が持っているなんておかしいだろう!!
「すごいよね、これ。精巧に作られていて、まるで本物みたい」
「感心している場合か!? どうするんだよ、これ? そう簡単には外せないぞ!!」
ガチャガチャと動かしてみるが、俺と葉月の2人をつなぐ手錠は全く外れそうにない。
どうやら鍵を使わないと開錠できないらしい。
「くそ!! せっかく教室から出られたってのに、これじゃあ動きが制限される」
先程教室で縄を持っていた連中は何とか撃退をしたけど、手錠を持っている連中はさすがの俺でも全ての人間を無力化することができなかった。
結果的に両腕の拘束は免れたが葉月と手錠でつながれてしまい、2人仲良く行動しないといけなくなった。
「(
ロープはまだしも手錠と鎖は高校生が持っていたらいけないものだろう。
例えそれが玩具だったとしても、どうやってそんな危ないものを入手出来たんだよ。
『小谷松が出てきたぞ!!』
『茅野を篭絡しようとする風見の野郎もいる!!』
『小谷松よりも風見に注意しろ!! 出来るだけ距離をとって、遠距離から狙っていけ!!』
「ちっ!!」
廊下の奥にいる投げ縄を持った男子生徒が俺達のことを指差したのと同時に、俺も葉月を引きずりながらそいつらのいる場所とは反対側の廊下へと走り出す。
幸い俺が走る反対側の廊下に親衛隊の連中は見当たらない。これなら葉月という重しを引きずっていたとしてもギリギリ逃げ切れそうだ。
「痛い!! 俊介!! もっと僕の事を丁寧に扱ってよ!!」
「うるせぇ!! お前も引きずられてないで黙って走れ!!」
誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!! 元はと言えば全て葉月が元凶だろ!!
大人しく葉月が紺野先輩と帰ってればこんなことにならなかったのに。何で俺まで巻き込まれないといけないんだ。
「くそ!!」
今は悪態をついてもしょうがない。とにかくこいつ等を撒かないと話にならない。
葉月と繋がっている手錠も外さないといけないし。やらないといけない事が多すぎる。
『追え!! 風見達を追うんだ!!』
『東の階段の方に逃げ込んだぞ!!』
『あちら側に隊員を配備しろ!! 急げ!!』
「誰がお前等に追いつかれるかよ!!」
葉月を引きずりながら、勢い良く階段を駆け上がる。
俺の予想通り親衛隊の連中は誰も追ってこない。どうやら俺が予想外の行動をしたせいで、俺達の事を見失ったみたいだ。
「ふぅ。とりあえず一息ついたみたいだな」
「俊介、どうして昇降口に行かないといけないのに上の階に向かったの?」
「考えてみろよ。あいつ等は反対側に人をまわしていたんだぞ。あのまま下の階で待ち伏せされていたら、後ろから迫る追手と挟み撃ちになるのが目に見えてる」
「確かにそうだね」
「たぶん奴等は昇降口で俺が茅野達と待ち合わせをしていることを知っているから、下の階に人員を多く配置しているはずだ」
「つまり上の階にいる親衛隊の人達は少ないってこと?」
「少ないというかいないだろうな」
「どうしてそう思うの?」
「俺達が帰るには1階に下りないといけないだろう? だから下の階で待ち構えていれば、俺達がのこのこと現れると思っているに違いない」
「それじゃあまずくない!? どうやったって逃げられないじゃん!?」
「だから一旦この騒ぎが落ち着くのを待つんだよ。一時的に騒ぎが収束するのを待って、相手が油断した隙に一気に昇降口まで駆け下りる」
「それで何とかなるの?」
「わからない。だけどそれ以外にあの連中を撒くことなんて出来るはずがないだろう」
あんな阿吽の呼吸を見せる親衛隊を相手にまともにやっても勝てるわけがないだろう。
だから一瞬の隙をついて一気に下までかけ降りる。それ以外に俺達がこの学校から脱出できる方法はないと思う。
「今はどこかに隠れてやりすごそう。一旦親衛隊連中がいなくなるのを待つんだ」
「わかった」
「あとはどこに隠れるかだけど‥‥‥」
「それならあそこに入ろうよ」
「あそこってどこだよ?」
「あそこだよ! ほら、早く行こう!」
「ちょっと待て、葉月!? そんなに引っ張るな!!」
あの非力な葉月にしては俺を力強く引っ張って行く。先程俺に引きずられていた時とは大違いだ。
葉月が進む方向とは反対側に力をこめ必死に抵抗するが、その抵抗もむなしく葉月がいる方へと徐々に引っ張られてしまう。
「お前は俺をどこに連れて行こうとしているんだよ!?」
「もうすぐ着くから。俊介は大人しくしてて」
「大人しく出来るかよ!! って、うわっ!?」
葉月の力に負けてしまいそのまま後ろに引っ張られた俺は、勢いあまって葉月に激突してしまう。
そのせいで葉月は前のめりでドアにぶつかり、倒れ込むように最寄りの教室の中へと入ってしまった。
「いててててて」
「う~~ん」
「おいこら、葉月!! 起きろよ!! そんなところで寝るな!!」
駄目だ。完全にのびてやがる。どうやらさっきの衝撃で気絶してしまったみたいだ。
「全く、葉月のこの謎の行動力は何とかならないのかよ」
火事場の馬鹿力だったとしても、もっと他に使う場面があるはずだろう。
こんなどうでもいい所で使う必要はないはずだ。
「う~~ん、俊介?」
「やっと起きたか。葉月」
「ここはどこ? もうおやつの時間は過ぎた?」
「寝ぼけてる場合か!! 全く、部屋に入るならもう少しゆっくり入れよ!!」
「でも、そのおかげで親衛隊の人達から無事逃げきれたじゃん」
「まぁな」
「そしたらここで一旦休もう。僕疲れちゃった」
「そうだな。葉月の言う通りここで少しは休息を‥‥‥‥」
俺がその場で顔を上げると驚きの光景が広がっており、それと同時に戦慄を覚えた。
目の前には下着姿の女性が大勢いて、全員が青ざめた表情で俺達の事を見ている。
「あはははは、どうも」
駄目だ冗談が通じるような相手ではない。全員が俺達の事を見て固まっている。
全員が全員見事なプロポーションであるため、ピンクや青の下着姿がすごく似合うという小学生並みの感想しか出てこない。
「俊介? どうしたの? 急に静かになって?」
「顔を上げて前を見ろよ、葉月」
「顔? 顔をあげればいいの?
手錠をしている手とは反対側の手で頭を掻きながら葉月は顔をあげる。
葉月の表情は見えないけど、たぶん俺と同じ表情をしているに違いない。
「えっと‥‥‥‥」
葉月も目の前にいる女性たちに向かって何か言おうとしているみたいだ。だが混乱しているせいか、一向に言葉が出てこない。
その間にも先輩達の顔が徐々に青から赤に変色していくのがわかる。
そして体がわなわなと震えだした。
「えっと‥‥‥その下着、すごく似合っていますね!」
葉月がその言葉を発した後、大勢の女性が悲鳴をあげたのと同時に複数のテニスボールが俺達を襲い、慌てて部屋を出るのだった。
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