第28話 私が好きな人は①
紺野陽子視点の話になります
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学校中が大騒ぎする中、私は結衣ちゃんと共に昇降口の前にいた。
葉月君達が来るのを悠然と待つ私とは対照的に、彼女は両手を組んで2人の無事を祈っている。
「風見君達、大丈夫かな」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。葉月君だけならまだしも、風見君までいるんだから。心配する事はないわ」
私と一緒に帰ることになった時、葉月君が学校中の男子から追いかけられることは予想していた。だからこそあらゆる手を使って風見君を誘ったのである。
あの親衛隊に対しても物おじしない風見君がいるなら、葉月君をここまで連れて来てくれるという勝算が私にはあった。
現にまだ2人は捕まっていないようで、学校中から風見君と葉月君の名前を呼ぶ声がここまで聞こえてくる。
「やっぱり風見君を誘わない方がよかったんじゃ‥‥‥」
「何を言ってるのよ。結衣ちゃんは
「はい」
「可愛い女の子と一緒に帰るために障害は付き物よ。風見君にも少しは苦労させてあげなさい」
「わかりました」
そう言うと再び結衣ちゃんは心配そうな表情で校舎を見上げる。
両手を握って祈るその姿は
「ふふっ、やっぱり可愛いわね。結衣ちゃんは」
こうして近くで見ていてわかったことだけど、私の想像以上に結衣ちゃんは可愛い。
もし私が男だったら間違いなく放っておかないだろう。それぐらい同性の私から見ても、彼女は魅力的だった。
「結衣ちゃんはそんなに風見君の事が気になる?」
「そっ、そんなことないです!? けど‥‥‥」
「けど?」
「風見君はあんまり追いかけられたことないだろうし、本当に大丈夫かなと思って」
「結衣ちゃんは本当に風見君の事が大好きなのね」
私がそう言うと結衣ちゃんは両肩をビクッと震わせる。
こうして図星をつかれた時に見せる焦った表情もすごく可愛くて、私は思わず見惚れてしまう。
「陽子先輩!?」
「あら? これは内緒の話だったかしら?」
「そうですよ!! この前一緒に帰った時、約束したじゃないですか!!」
おどおどする彼女に向かってわざとらしく口元を吊り上げる。
そうすると彼女も頬を膨らませて不満をあらわにした。
「そうだった! 結衣ちゃんの大好きな人が風見君ってことは内緒だったわね」
「陽子先輩!?」
私もこの前一緒に帰った時に知ったことだけど、どうやら結衣ちゃんは風見君の事が大好きらしい。
薄々そんな予感はしていたが本人の口からその言葉を聞いたことで、私の疑念は確信へと変わった。
「今の話、風見君にはしてませんよね?」
「もちろんよ。風見君はこの話を知らないわ」
「よかったぁ。風見君に知られてなくて」
あからさまに安心した表情をする結衣ちゃんを見て私もほっと息をつく。
そして心の底から、彼女が私の敵じゃなくてよかったと思う。
「(こんな可愛い子を相手にして、勝てるわけがないじゃない)」
それが今まで結衣ちゃんの事をずっと見て来た私の感想だった。
彼女は私にはない男の子が守ってあげたくなるような可愛さを持ち合わせている。
そして料理も出来て家庭的で人あたりも良い。運動が苦手なのが唯一のウイークポイントだけど、その事も彼女の可愛さを引き立てる材料でしかない。
「(葉月君争奪戦で1番のライバルになるのは、間違いなく結衣ちゃんだと思っていたわ)」
だけどそうはならなかった。なぜなら彼女が好きなのは風見君だからだ。
その事が発覚した今となっては、私は彼女の恋を素直に応援している。
願わくば一途に風見君の事を思う結衣ちゃんの恋が成就してほしい。心の底からそう思っていた。
「それにしても意外ね。結衣ちゃんの好きな人が風見君なんて」
「‥‥‥何か悪いですか?」
「悪くないわ。ただ私は貴方も葉月君の事が好きだと思っていたから、少し意外だっただけよ」
「確かに陽子先輩の言う通り、葉月君もいいとは思うんですけど‥‥‥私は風見君の方が好きです」
「彼は背が高くてちょっと怖そうだけど、いい人よね」
「はい。風見君は格好良くて、気遣いもできて‥‥‥凄く優しい人です」
風見君について話す時の結衣ちゃんは真っ赤になった顔を俯いて隠し、その場でもじもじとしている。
そのあまりの可愛さに私は思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。
「(この姿を見ていると、親衛隊の人達がこの子を慕う理由もよくわかるわ)」
彼女の側にいると可愛くてか弱いこの子の事を守ってあげたくなるような庇護欲が湧いてくる。
「(昔は全くそうは思わなかったのに。不思議な物ね)」
彼女が敵ではない事がわかると、こうも見方が違ってくるみたい。
結衣ちゃんが葉月君の事を何とも思っていないことを知ってから、私も彼女のファンになった。
正直彼女の親衛隊に入っていいとさえ思っている。それぐらい私は結衣ちゃんの事が好きになった。
「結衣ちゃんは風見君のどういう所が好きなの?」
「努力家で誰にでも気遣いが出来て、優しい所です」
「そうなの?」
「はい。中学時代から困ってる時によく相談にのってくれて、私の事を色々と助けてくれました」
「面倒見がいいのは中学時代からなのね」
「はい。私達同級生からだけじゃなくて、先輩や後輩からも慕われていました」
「本当あの子はお節介焼きなのね」
中学時代の風見君が苦労している姿がありありと浮かんだ。
普段からやけに問題の対処に手慣れているなとは思っていたけど、もしかすると中学時代の経験があったから、上手く立ち回れていたのかもしれない。
「今日こそは風見君と一緒に帰れるといいわね」
「はい!」
風見君のことを話す結衣ちゃんは本当に可愛く恋する乙女そのものである。
たぶん今の彼女は普段の数倍可愛く見えているはず。
もし結衣ちゃんの親衛隊がこの姿を見ていたら、間違いなく風見君は足に重りをつけられて池に沈められていただろう。
「陽子先輩、1つ質問してもいいですか?」
「何?」
「先週の話なんですけど、何で陽子先輩は葉月君の事が好きなのにも関わらず、風見君を押し倒したんですか?」
私に対して結衣ちゃんはそんな質問を投げかけてきたのだった。
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