第18話 親衛隊の逆襲
「風見君!!」
「茅野?」
「大丈夫だった!? さっき紺野先輩に押し倒されていたけど!?」
「俺は別に大丈夫だよ。どこも怪我をしてないし問題ない」
「よかった~~。風見君に何かあったらと思って心配してたんだよ」
「悪かったな。心配させて」
「本当だよ!! 次からは気をつけてね!!」
「わかった」
何故かわからないけど、俺に話しかける茅野は俺が紺野先輩に何もされていない事を知ると安心していた。
この様子を見る限り、茅野は本当に俺の事を心配してくれたようだ。
「(葉月の事が好きなのに俺にまで気にかけてくれるなんて、茅野は本当にいい奴だな)」
俺が茅野の事が好きな理由はこういう所にある。
確かに茅野はアイドルのように可愛いけど、優しくて面倒見がいい内面に俺は惹かれた。
それは中学時代から全く変わっていない、俺だけが知る茅野のいい所である。
「何か安心したらお腹が空いてきたな」
「うん、そうだね」
「そしたら残っている昼ご飯でも食べるか。って言っても、もう殆ど時間がないけどな」
時計を見ると昼休み終了まで大体あと10分ぐらい。その間に昼食を終える必要がある。
紺野先輩の重箱は後で葉月がなんとかするとして、俺が買って来たメロンパンならその時間内に食べられるだろう。
「それなら風見君‥‥‥」
「どうした? 茅野?」
「せっかくだから!! 私と一緒にお昼ご飯を‥‥‥」
「おい、風見」
「はい?」
唐突に肩を掴まれたので後ろを振り向くと、そこには紺野先輩の親衛隊と思われる男が何人も群れになって俺のことを見ていた。
心なしか俺の肩を掴む力が強い。そして目から血の涙を流さんばかりの勢いで俺の事を睨んでいる。
「お前さっき、紺野先輩と何をしていたんだ?」
「俺は何もしてないぞ!!」
「惚けるな!! お前は紺野先輩を押し倒しただろう!!」
「あれは俺が押し倒したんじゃなくて押し倒されたんだ!! それに一連の行動は全て紺野先輩から起こした行動だぞ!? 俺に責任はないはずだ!!」
「責任はある!! そもそも風見が紺野先輩に近づかなければ、こんなことは起きなかった!!」
「だからお前が悪い!!」
「理不尽だ!!」
駄目だ。何を言っても
まるで親の敵のように俺の事を睨みつけてくる。
「おのれ‥‥‥この人類の敵め!!」
「待て待て待て!? 俺は何もしていないのに、何でこんな扱いをされないといけないんだよ!!」
葉月みたいに積極的に紺野先輩と絡んでいたなら、
あの『あ~~ん』と弁当を食べさせている光景は、間近で見ていた俺も正直言ってむかついた。
だからあいつお仕置きされても仕方がないと思うけど、俺の場合は違うだろう。
「そもそも今回の件は全て葉月が原因だろう!? 責められるべき人物はあいつだけのはずだ!!」
「うるさいうるさいうるさ~~い!! 紺野先輩が特定の男子と近づいた事。それだけで死罪にあたるんだ!!」
「何でそれだけで殺されないといけないんだよ!!」
「何を言ってももう遅い!! 我々紺野陽子親衛隊による裁判の結果、既にお前の刑は決定されている。大人しく断罪されろ!!」
「風見君は床埋めの刑で~~~す!!」
「俺がいない所で刑が決まるなんて、そっちの方が理不尽だろ!!」
俺はその場から立ち去るように慌てて教室を出た。
教室にいた親衛隊の連中も俺の事を追いかけてくる。
「紺野先輩め、厄介な爆弾を置いていってくれたな」
こうなる事も全て承知の上で、紺野先輩は教室を出て行ったのか。
最後に言った『ごめんなさい』や『がんばって』って言葉は、きっとこの事を指していたのだろう。
今になって理解した。
「そういう事を言うなら、せめて親衛隊の連中を説得してから帰ってくれ」
でもそれが出来ないから、諦めて教室から出て行ったんだろうな。
今回の事件でわかったこと。それは紺野先輩自身、自分の親衛隊を制御出来ないことだ。
だから全てをあきらめて俺に謝った後、静かに教室を去ったのだろう。
「(予鈴10分前に帰ったのは、せめて俺が5時間目の授業が始まるまでの間なら逃げ切れることを見越した、紺野先輩なりの慈悲だったのかもしれない)」
予鈴のチャイムが鳴れば、親衛隊の連中も全員教室に戻るはずだ。
だからそれまでの間逃げ切ることができれば俺の勝ち。勝利条件が明確な時間制限付きの鬼ごっこである。
「逃がすな!! 追え!!」
「あいつを簀巻きにして池に沈めろ!!」
「いや、池など生ぬるい。太平洋沖に生息しているサメの餌にしてやる!!」
後ろから聞こえてくる親衛隊の不穏な叫びを聞きつつ、追いすがる親衛隊を撒こうと俺も躍起になって逃げる。
『太平洋沖にサメが生息しているのかよ!!』という不毛なツッコミを心の中でしつつ、必死に親衛隊を巻くように走った。
「待て!! 風見!!」
「大人しく太平洋沖に沈め!!」
「太平洋沖に沈められるって聞いて、誰が止まるかよ!!」
結局この不毛な鬼ごっこは昼休みが終わるまで続けられた。
逃げている途中裏庭に行くと、花壇の前でボロボロになって倒れている葉月がいたのはまた別の話である。
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