第6話 鈍感な友人
「今日はありがとう、色々と相談にのってくれて」
「あぁ。俺でよければいつでも相談にのるよ」
学校の校門前、今俺はそこで茅野と話している。
結局どんなマフィンを作ろうかという話で盛り上がった結果、茅野まで一緒に学校に戻ってきてしまった。
「それにしても茅野、ここまでよく頑張ったな」
「うん。風見君と話してるのが楽しくて、気づいたら学校まで戻ってきてた」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。でも、俺のペースに合わせられたのは茅野の力だから、俺は関係ないよ」
「そうかな?」
「そうだよ。もしかすると昔よりも体力が着いたんじゃないか?」
「それはないと思う。体を動かす機会なんて、体育の授業以外だと殆どないから」
「本当か?」
「本当だよ。運動なんて体育の授業か家から学校まで自転車で走るぐらいのことしかしてないよ‥‥‥だから最近お腹周りが少し気になって‥‥‥」
「うん? 最後の言葉声が小さくて聞き取れなかったけど、何か言った?」
「何でもないよ!? 風見君には関係ないことだから!? 気にしないで!?」
「わかった」
この茅野の慌てよう、たぶん俺には聞かれたくない話に違いない。
だったらここは聞かなかったことにしよう。それが双方にとって一番いいことだ。
「それよりも風見君はこの後どうするの?」
「俺は部室に戻って補強‥‥‥筋トレをして帰ろうかな」
「その筋トレってどれぐらい時間がかかるの?」
「大体1時間ぐらいかかるな。腕立て腹筋に背筋、それとスクワット。一通りトレーニングをする予定だから、かなり時間がかかると思う」
その他にも色々な種類の筋トレをするつもりだから、それを30回3セットすることを考えるとこの時間で終わるかわからない。
下手をすればもっと時間がかかる。あくまで早く終わって1時間というだけで、場合によっては1時間以上やる事もある。
「そうなんだ」
茅野はその話を聞いた後、何故かしょんぼりしている。先程まで俺と話していた時のテンションが嘘のようだ。
「どうしたんだ茅野? 俺の練習に付き合って具合が悪くなったのか?」
「全然。そう言う事じゃないよ」
「茅野?」
「ごめん、何でもない。また明日。学校で会おうね」
「おっ、おう。また明日な」
挨拶をして帰ろうとする茅野は至って普通だ。自転車に乗って校門の外へと出ていく。
でも何故だろう。自転車に乗って帰ろうとする茅野の後ろ姿は落ち込んでいるように見えた。
「何か俺、悪いことをしたかな?」
考えてみたけど思い当たる節がない。だって先程まで茅野は俺と楽しそうに話していたんだぞ。
急に機嫌が悪くなる理由なんてわかるはずがない。
「もしかしてさっきの会話中、何か茅野の気に障るような事を言ったかな?」
いや、それもなかったはずだ。特段茅野が落ち込むような事は言ってない。
俺の思い違いだといいけど、茅野の事が少し心配になった。
「ここで考えても仕方がないな。とりあえず部室に戻ろう」
もし明日教室で会った時茅野の機嫌が悪かったら、その時もう1度考えればいい。
今は考えるだけ野暮な話だ。引き続き部室に戻って体を動かそう。
そう考え直した俺は校門で茅野を見送った後部室へと戻った。
「戻ったぞ」
「おかえり俊介。今日はやけに遅かったな」
「あれ? 先輩達はどこに行ったんだ?」
「もうみんな帰ったよ。トレーニングも一通り終わったらしいから、早めに帰るって言ってた」
「それなら何で慶治は残ってるんだよ? 一緒に帰ればよかっただろう?」
「俺は部室の鍵とトレーニング室の鍵を俊介に渡すために残ってたんだ。用件を終えたら今日はもう帰るよ」
「なるほどそういうことか。悪いな慶治、俺の為に残ってくれて」
「全然気にしてはいない。それよりも俊介はどんな理由で俺が部室に残っていたと思ったんだ?」
「俺にSMの普及をする為とか?」
「あぁ、そのことか。それはこれから作戦を練る手はずになっているから、楽しみにしていてくれ」
「楽しみよりも恐怖の方が勝るんだけどな」
慶治が始めるSMの普及方法。こいつは一体どんな手を使って俺の事をはめようとしてくるつもりだ?
ただ1つ言えることは慶治がどんなことをしてきたとしても、俺がSMにはまる事は断じてない。それだけは胸を張って言える。
「それよりもほら、これが鍵だ。受け取ってくれ」
「おっと」
慶治が投げてきたのは陸上部の部室の鍵とトレーニング室の鍵。
その鍵を俺が受け取ったことを確認すると、慶治は立ち上がった。
「じゃあ俺はこれで」
「また明日な」
「また明日」
慶治は自分の鞄を持つと、そのまま部室を出て行ってしまう。
残ったのは俺1人。鞄が1つだけ残された寂しい部室に1人立っている。
「とにかく今は筋トレをするか」
部室の鍵を閉め隣にあるトレーニング室へと入り筋トレを始める。
一通りのメニューが終わるまで1時間みっちりトレーニングを行い、タオルで汗を拭い部室へと戻るのだった。
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