第12話 すべての真実と正宗との関係
本で読んだが、レイプか合意かは、相手の女性の意見によって左右されるというが、児童福祉法の法律から十八歳以下の女性(のみに限らず、男性も同じであるが)に性行為をした場合は、淫行ということになる。
たとえ、夫婦間でもそれは同じである。
妻が嫌がっているのに、夫が無理やり性行為に及んだ場合は強姦ーレイプであるが、妻が応じた場合だったら和姦ー合意の上の性行為ということになる。
私は、正宗のお母さんがどんな女性から知らないが、本当に抵抗したんだろうか?
女性が、力を振り絞って死ぬほど抵抗しているのに、強姦する必要などあるのだろうか? まゆかには理解し難い。
ただひとつわかっていることは、二十年以上もたった今、そのことを持ち出しても時効であり、無意味に近いものであるということである。
正宗は、まゆかの目を見てきっぱりと言った。
「しかし、俺は自分がレイプの末の子だということを、恥じてはいない。
だって、どういう形であれ、この世に生を受けたということには、変わりがないんだから。そして、お前の親父さんーといっても、どんな人かはまったく知らないが、憎んでもいない」
まゆかは、その言葉だけが救いだった。
血縁関係はないとはいえ、ひとつ屋根の下で生活している義父が誰かに憎まれているなんて、あまりにも悲しい事実である。
「俺は、おかんには心か感謝している。尊敬の念さえもっているよ。
だって、俺みたいな立場の子は虐待されるかもしれないのに、ちっともそんなことはなく、自分の分身のように愛してくれたものな。こんな立派な女性、どこを探してもいない、世界一の母親だと思ってるよ」
まゆかは、いつかは私も我が子に、深い母性愛を注げる日が訪れるのかなと甘い夢をみていた。
母親と我が子とは命で繋がっているので、母親は子供を愛して当たり前。
しかし、父親は命では繋がっていない。だから父親の愛こそ、本物であるという話を聞いたことがある。
正宗は、うつむき加減に言った。
「だから、お前とオレとはいわゆる異母兄弟。結ばれない運命なんだよ。
しかし、俺とお前とは、人間として付き合っていきたい。それならいいだろう」
正宗は、まゆかの肯定を信じているようだった。
なんだか、短時間にいろんなことがありすぎて、刺激の強いサスペンスドラマを見ているような、ドーパミンがまゆかの全身を駆け巡っていた。
しかし、それは決して不快なものではなく、むしろ体中の全細胞が新生するような画期的なエンドルフィンのような幸福感に包まれていた。
「少し、考えさせてね」
まゆかは、正宗に背を向けて歩き出した。
男女間の友情がないとは言い切れないが、本当にそんな気持ちだけでつきあえるものなのだろうか?
まゆかは、はなはだ疑問だったが、考えた末、まず人間同士として付き合ってみよう。
車いすの身障者は、男女共に性行為が不可能だというのに、それを承知で結婚したカプルも存在している。
周りはこぞって「性生活のない夫婦なんて考えられない。どちらかが拒否すると離婚の原因理由にもなる」「子供を産めないなって、後継ぎ問題にもならない」
でも、性生活だけがすべてだろうか?
現実は性生活があろうと、子供を複数抱えたシングルマザーは、存在している。
また、養育費もろくに払えない、いや払わない元夫も存在しているではないか。
そもそも、養育費などというものは、最初の一、二か月で終了するというので、離婚裁判になった場合は、養育費よりも不動産をもらった方が得策だという。
まあ、芸能人を除いては、離婚した後、養育費を支払うくらいなら、最初から離婚などしないだろう。
また、アメリカではセックスさせてあげないと嫌われると思い、男の言いなりになった途端に飽きられ、あげくの果てに中絶したなんていう悲劇的な例もある。
セックス=愛と思いたいが、実際はそうでもないんじゃないかな。
男はそういう風に思ってないんじゃないかな。
以前、まゆかは若い男性同士の会話を聞いたことがある。
山P(山下智弘)風のイケメン君曰く
「SEXしたら飽きてくる」
すると 漫才師万年ボケ担当の花柄シャツ
「飽きてくるな。だから、結局中絶させてしまった。中絶させた男の方も傷つくんだぜ」
そうよね。そういえば十六歳のとき、恋愛もどきの末、中絶した女性が大衆を目の前に赤裸々に語っていた。
しかしその大衆のなかに、女を風俗などに売り金の道具にしてやろうという悪い輩が存在していたら、危ない結果になったろうなと、ひそかに危惧したのを覚えている。
まゆかは、正宗とはセックスなしで付き合っていくわけだけど、まあそれも一つの愛というよりも友情のしるしかな。
しかし、少なくともほかの男と比較したり、容姿の悪口を言ったりすることだけはお互いにやめよう。このことは、正宗にも告げるつもりである。
正宗とまゆかは、手をつないで歩いていた。
こういうつきあいも悪くないんじゃないの。
いや、これがジェンダー問題を超えたトレンディーな男女の在り方かもしれないとまゆかは納得していた。
LAST
路地裏のラブソング すどう零 @kisamatuma
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