第4話 やばい喫茶アクセスのテレビ取材
「もしもし、正宗君。まゆかです」
「ああ俺、今のうちに言っとくけど、もうアクセスには行くな。あの店は危ない店だぜ」
「まさか、エンコー専門店だったりして」
「あれっ、どうして知ってるの?」
「なんとなく、グレーゾーンの匂い漂いまくりよ」
「でも俺、まゆかちゃんには、個人的に興味を持っちゃった。いけないかな」
「でも私でいいの? 私みたいなこれといって取り柄のない平凡な女子高生で」
「とんでもない。俺の方こそ俺ってなんの取り柄もない人間だけどさ、ワルでもないし、いじめられっ子でもないし、かといって勉強好きの優等生でもないしさ。
まあ、将来的には夢を持ってるけどさ」
「まあ、私も夢は持ってるわ。今はまだ秘密だけどね」
「教えてよ。誰にも言わないからさ」
「一度でいいから、テレビに出演して、お笑いタレントと共演すること」
「ホント。いわゆる素人参加番組だな。テレビの制作費が安くつくからよく放映しているよ。まあ、ヤラセもあるらしいがね。
実は兄貴の知り合いの放送作家が、やっている番組があるんだ。
俺がまゆかちゃんを推薦するよ。朝月放送の番組だけどさ。
面白そうな人を探してるんだってさ。一度、会ってみないか」
「まあいいよ。でも私ってこのとおり、面白くもおかしくもない平凡な人間よ」
「いや、案外そういう子の方が新鮮かもね」
まゆかは、正宗の誘い通りに放送作家に会ってみようと思った。
待ち合わせの場所に現れた放送作家は、サングラスをかけていた。
二十五歳くらいだろうか。細身でまるでタレントみたいである。
「お待たせしました。あなたが杉沢まゆかさんですね。
静かなところに行って、ゆっくりお話ししましょう」
ぎょぎょぎょっ、なあにこれ、ホテルへでも連れ込もうというのかな。
「テレビ出演の条件をお教えします。まず個性と即答性です。
質問されたら、即座に返答を返すことです。エーとかウーンとか迷ってちゃダメですよ」
路地裏にある小さな喫茶店で、まゆかは放送作家から、テレビ出演にあたる指導を受けていた。
「あなたの出演していただく番組は‘真夜中にフフフン’というお笑い番組です。
今売り出し中の若手芸人が司会を勤めていますが、あなたには、ご意見番になって頂きます」
「えっ、初めて聞くタイトルですね」
「この番組は、実は関東限定番組であり、関西で放映されることはありません。
だから、ご意見番の出演者さんは、関西の方に選出させて頂きました。
関西の方の新鮮な意見をお伺いするのが狙いです。」
そうかあ、全く違う地区で放映されるから、言いたいことも遠慮なしにズバズバ発言できるかもしれないな。
「そこで、ドキュメンタリーの内容はどういったテーマのものですか」
「それは、見てからのお楽しみ。皆さんの驚愕した表情を放映することで、視聴者にインパクトを与えたいのです」
なるほどね、ネット画像の影響で、テレビの視聴率が減少しているというが、できるだけトレンディーな番組を放映したいんだな。
そのときのまゆかは、客観的にしか捉えていなかった。
まゆかは今‘真夜中にフフフン’の収録現場にいる。
「皆さんこんばんは。‘真夜中にフフフン’の時間がやって参りました。
私は司会の田原あつしです」
二十年以上活躍しているお笑い芸人であるからして、なんとなくユーモアがある。
深刻な事件や問題も、こういうコメディータッチの司会者がしきることで、いくぼくかの救いを見出せそうだ。
「今晩は、今、ちまたで話題のネットカフェに取材に参りました」
なんと、画面を見るとまゆかが以前に行ったアクセスが映っているではないか。
「さあ、中年男が早速セーラー服の女子高生と腕を組んで、退出口からでていきます。これからこの二人、どこへ行くのでしょうか」
セーラー服姿の女子高生風の少女は悪びれもなく、あっけらかんと答える。
「この服は、制服じゃなくて、コスチュームだよ。それに私は十九歳。
マイナカード見せるね。カラオケで歌うだけだよ。私、歌手志望なの」
なるほど、マイナカードには生年月日が記されてあるが、写真を貼り変えた偽造マイナカードも存在するという。
記者が、アクセスの店内に潜入した。
これ、やばいよ。ひょっとして正宗君が映ったりして。
まゆかが体験したように、パソコンが置いてあり、生徒役の女の子がインストラクターの男性に指導を受けている。
ただ、従来のパソコン教室と大きく違う点は、別室にカメラが置いてあるということである。
そのカメラの仕込まれた部屋で五人くらいの男性が、生徒役の女の子の様子を食い入るように見つめ、なんと床には隠しカメラが設置されてあり、女の子のスカートの中のパンティーがくっきりと映し出している。
そして、インストラクターの男性が、満点、合格点、落第点の札を下げているのだ。どういうことなんだろうか?
満点の札の上がった途端、別室の男性はざわめきだし、順番を作り出した。
どういうことなんだろうか?
「私は、早速インタビューしてまいります」
記者は、店長と名乗る人にインタビューした。
「これは、課外授業のことです。インストラクターから満点をつけられた女の子は、ワード検定の講師資格あり、合格点と落第点をつけられた女の子は、課外授業が必要ということです」
「なんですか。その課外授業というのは? ひょっとして、店外デートのことですか?」
「誰もそうとは断言していません。私どもは、お客様同士がパソコンを通じてコミュニケーションをつくれる場を提供しているだけです」
なるほど、法律に触れることは一切していないわけか。
しかし、この店長と名乗る男、一見紳士的だが、なんとなく演技をしているようにしかみえない。
私の偏見だろうか?
まゆかは、なんとなく裏があるようで怖くなってきた。
「さあ、ご意見番の皆さん、フレッシュな感想をお聞かせ願いましょう」
まゆかの右隣の三十歳くらいのおじさんが、感想を述べ始めた。
「これ、どう見ても新手の援助交際としか思えませんね。おっさんにパソコンを教える女子高生を装ったエンコー紹介所ですよ」
「でも、地方からでてきた学生さんなんかは、いとも簡単に騙されてしまいそうですね。だって、地方出身者は法律の知識も乏しく、相談相手もいないから、カモにされちゃいそうですね」
これは、中年のおばさんの意見である。
まゆかにマイクが向けられた。
「なんとなく、やばい感じですね。すべてが仕組まれたワナみたい」
そう答えるのが精一杯だった。
番組が放映されたのは、録画の一週間後だったという。
しかし、関東限定だから、まゆかの地域には放映されない。
したがって、誰もまゆかが出演していることは知らないはずである。
「まゆか、昨日見たわよ。テレビでででたでしょう」
由梨が学校で声をかけてきた。
えっ、関東限定じゃなかったの?
「ああいうネットカフェって、あらかじめ予約してからでないと、入場できないみたいね。たとえば、中学の時の同級生から電話がかかってきて「バイトの面接にお洒落なカフェに行くの。だからついて行ってほしい。もちろんケーキセットおごるわ」
なんて誘いに乗って、なんでも帰りには、交通費と称して最低五千円の金がもらえるらしいよ。だから、小遣い稼ぎにする子もいるらしいよ」
怖いなっ、小遣い稼ぎにいったネットカフェには、そんな裏が隠されていたのだ。
「まゆか、なかなか鋭いこと言うじゃん、女の第六感というやつね」
思えば女は、いつも危険にさらされている。
容姿端麗な人ほど、危ないのかもしれない。しかし、女を商品化する理由は、それを金にし、金で買おうとする男が存在するからである。
まゆかは、世間の裏側をかいま見たような気がした。
それから一か月後、警察の手入れが入り、アクセスは閉店に追い込まれた。
正宗にももう会えないな。そんなことを考えながら、まゆかは夕食つくりのため、スーパーに買い物にいった。
もう夕食つくりは、すっかりまゆかの日課である。
和風油抜き薄味低カロリー料理が、まゆかの得意である。
「いらっしゃいませ。アールグレイパン、おまけしときますよ」
あっ、正宗だ。なんとベーカリーのなかの喫茶コーナーのカウンター内にいる。
ユニフォームであるモスグリーンのエプロンがよく似合う。
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