第5話 過去のわたし達
思い出して……思い出して……。
そこは真っ白い空間であった。地平線には白しかない場所であった。
『あの時に本当に死したのは誰?』
健一君……。
ビビビッアラームで目が覚める。何だろう?この微睡の夢は?
微かに記憶にあるのは健一君が死んでカカシに願ったこと。
うぅーん、頭が痛い。悪い体調だが学校に行かないと。この胸騒ぎが激しい気分は……。
健一君の死が近い感覚であった。ノロノロと支度をして学校にたどり着く。
「おはよう、健一君」
わたしは健一君を見つけて声をかける。
「お、ぉ、おはよう……」
「どうしたの元気が無いよ」
「真っ白い、夢を見てな」
健一君は深刻な顔で語り始める。
「子供の頃に側溝の近くで遊んでいたら足が滑って落下、頭の打ちどころが悪くて死んだ夢をみてな」
思い出した!
死した健一君の代わりにわたしが命をあげたのだった。カカシの神様は十七歳の時に命を貰うと言っていた。でも、カカシの神様は後悔した、わたしが死んで健一君が予想以上に悲しんだからだ。
そこで、一年と三ヶ月前まで時計の針を戻したのだ。つまり、わたしは選ばなければならない。わたしの命と健一君の命をだ。
***
昼休み、校舎の屋上で流れる雲を見ていた。わたしは生きる意味について考えていた。子供の頃に健一君と遊んでいた事をカカシの神様のせいかすっかり忘れていた。
そう、事故死した健一を助けるのは軽率な判断であった。わたしが死ぬ事で悲しむ人が沢山いたのだ。でも、命を救うには命が必要。そんな事を考えているとだ、振り向くと健一君がやってきた。
「俺、死んだのだよな……そして、一回、佐知の死があって今があるのか……」
健一君も全てを知ったらしい。
「落ち着いて、わたしの死はまだ先よ」
そうか……健一君は静かに黙り込む。わたしが腕時計を見ると。昼休みの時間が終わろうとしていた。
「時間よ、午後の授業が始まるわ」
「あぁ」
健一君は元気なく返事を返す。これが世界の終わりなのかもしれない。
決断が必要だ、わたしは生きたい。健一君の居ない、終わった世界でも生きたかった。
決して交わらない線の関係なら生きる事を願った。
これでカカシの神様がどうするかだ。
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