マリオンがなかまになった!

(熱い視線を感じ、る……?)

 まだ幾人かの息のあるゴロツキをまとめて縛り上げていると、首筋にチリとした違和感を覚えた。

 感覚に従い視線を向けると、騎士の兜、そのドアップが視界を埋め尽くした。

「うおっ⁉」

「なんだ! 敵か⁉」

「いや敵じゃないですよ! なんでそんな近くにいるんですかマリオンさん⁉」

 ゴロツキを退治し終えた後、互いに軽い自己紹介を済ませた。

 兜越しのくぐもった声だけでは性別の判断が難しい。

 まぁこんな重そうな鎧を着てあれだけ見事な剣を振るえるのだ。鎧の下は爽やかイケメンなムキムキマッチョマンだろう。

 先の緊急時にはこちらの意図を察してくれたマリオンだが、今は俺の後ををついてきては背中に熱い視線を送ってきて、何を考えているのかさっぱりである。

「……あの、ロープ貸すんでマリオンさんもまだ生きてる奴らを縛ってもらえます?」

「っ、あぁ。そうだな、すまない」

 そうして手分けしてゴロツキを縛ること数分。

「っ、これは……!」

「どうしました」

 マリオンの息を飲む気配を感じた。

 彼は丁度盗賊首領(仮)を縛り上げている最中で、男の持っていた短剣を目にして驚きに声をあげたようだった。

「あぁ、何だかタダの盗賊にしてはやけに装備が整ってますよね、こいつら」

「……見てみろ、短剣の柄の紋章を。これはザメル伯爵家の家紋だ」

「え⁉ ザメル伯爵って隣の領地の⁉」

 俺には貴族の紋章の見分けなどつかない。

 意外な人物の名前が出てきたために驚きが隠せない。

 一方でマリオンは落ち着いているように見える。貴族の家紋にも精通しているようだし、彼は一体何者なんだろう?

 ……なんだかきな臭くなってきたぞ。

「真逆、こいつらは──」

「マリオンさん? 何か言いました?」

「──いや。さっさと捕まえて、衛兵に突き出してしまおう。きっといい金になるぞ」

 マリオンの口から金のことが出てくるなんて、「意外に俗っぽいんだな」と俺は親近感を覚えた。


 その後、タイラー親子を村へ送り届けると、ドマ婆さんからはこっちの方が申し訳なく思ってしまうほどの感謝を述べられた。

「ありがとうねぇ……! 本当に、ありがとうねぇ……!」

「いえいえ。好きでやったことですから」

 尚もお婆さんは感謝し足りないのか、良かったら飯でも食べていってくれと言ってきた。

 俺が丁重に断ろうとするよりも早く腹の虫が答えてしまったので、ここは厚意に甘えることにした。

 ドマ婆さんは料理上手らしく、出された料理はどれも絶品で俺は舌鼓を打った。

 料理は美味い。美味いのだが──。

「……マリオンさん、食事中ぐらい鎧を脱いだらどうです?」

「いや、いつ敵が襲ってくるとも限らないからな」

 んなアホな。

 そう言って鎧兜を着込んだまま、バイザーを上げるに留めてマリオンは器用に食事を摂っていた。

 バイザーの下から見えた日に焼けていない白い肌と赤い唇を見て、何故か心臓が跳ねた。……いや気の所為だろう。

 ドマ婆さんの美味しい手料理と、タイラー親子から感謝の言葉と他愛のない世間話を交える。

 冒険者の身では中々に味わえない、家族の暖かさを感じた久々の時間であった。


 食事を終えお婆さんの家を後にすると、自然マリオンと同道していた。

「マリオンさんは何処へ?」

「……私は特に目的のある旅をしている訳ではない。そういうアズこそ何処かへ向かっていたのか?」

「そうですねぇ。自分は王都へと──」

「奇遇だな! 実は私も王都に用があるんだ‼」

「いやマリオンさん……。さっき旅の目的は無いって──」

「王都に用があるんだ‼」

「……はい」

 全身甲冑フルプレートで迫られると圧が凄い。

 俺は只々頷くことしか出来なかった。

 まぁ彼が王都に用があろうとなかろうと俺には関係のないことだ、などと考えるとマリオンが不自然なまでに咳払いを始めたではないか。

 なんだ、と。つい訝しむ視線を向けてしまう。

「んん、こほん。こほんこほん! 付与術師エンチャンターの一人旅は危険だと思うのだが。おや? ここに丁度行く先を同じくする腕の立つ人物がいるのだがなぁ。こほんこほん」

「……あの、もしマリオンさんが良かったらなんですが。一緒に行きません、王都? ほら、旅は道連れって言うですし」

 チラチラと。兜越しですら期待に満ちた視線を送られているのが分かる。

 俺の方からおずと提案すると、喜色に満ちたマリオンのくぐもった声が響き渡った。

「なんだアズは私と離れたくないと言うのか⁉ うむ、で、では仕方ない。この騎士マリオンが、お前を守ってやろうじゃないかっ」

「え……、いえ、そこまでは言って──」

「離れたくないよな⁉」

「……はい」

 こうして俺は、生来の気弱さからマリオンの強引さに押し切られてしまい、王都までの道中、新たな仲間を迎えたのであった。

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