『金剛猿』結成編
騎士マリオン
流離いの付与術師
「はぁ……」
「ほらっ、元気お出しってアズ! またイイ人が見つかるさね!」
「女将さん……」
アズはさるパーティーを抜けたばかりであった。
理由は──失恋である。
いや、あれを失恋と呼んでいいのかはたして。告白をした訳ではない、想いを伝えた訳でもない。ただ、少し前まで所属したパーティーで、いい感じの仲になった女戦士ちゃんがいたのだ。
これは──遂にイケるのか⁉
年齢と童貞歴とが一致するアズは期待に胸を膨らませた。ついでに股間も──ってやかましいわ‼
結論から言えば──そう、失恋である。
アズは
女戦士ちゃんと二人三脚、
「あなたの強化のおかげで
暗雲が立ち込めてきたのはいつだろう? 悩むまでもない、女戦士ちゃんの、あの一言からだ。
「ねぇ、新しいメンバーを募集しない? 私一人じゃあなたを守るのにも限界があるし……」
魔法使い系のジョブには自分を守ってくれる前衛が必須だ。何せ魔法の発動に要する集中動作の際は、無防備に等しいからだ。
強化した女戦士ちゃんが敵を順調に屠っている間はいい。だが、アズが狙われて一度でも守勢に回ると、そこからズルズルと追い込まれる──そんな状態が続いていた。
女戦士ちゃんの発言はそれを懸念してだろう。
彼女の言葉は正しい──正しいが、故に反論が出来ない。
本当は二人きりが良かったが、生来の人の良さと気弱な人柄から、アズも新メンバーの加入に同意した。
「へぇ。お前が噂の
入って来たのは金髪メッシュの耳ピアスの、見るからに軽薄そうな男戦士──いや、チャラ男戦士だ。
アズの胸に一抹の不安が過ぎる。
──不安は的中した。
「ベンって強いのね!」
「へ、それほどでもねぇさ」
対して女戦士とチャラ男戦士は互いに背中を預け、共に死線をくぐり抜ける。女戦士ちゃんの心がチャラ男戦士へ向くのに時間は掛からなかった。
彼女の感謝は、笑顔は、チャラ男戦士に向けられるようになった。
──悔しかった。
二人の活躍は、俺の
──惨めだった。
そんな恩着せがましい考えをする自分が。
更にアズの心に追い打ちを掛けるのがチャラ男戦士だった。
「さすがだなアズ! お前の
──そう、チャラ男は軽薄ではあったがイイ奴でもあった。
(……そりゃ女戦士ちゃんも女々しい俺よりベンの方に気が向くよな)
そしてアズは決意した。
「……なぁ、考え直さねぇか?」
「そうよアズ。私たち、上手くやってきたじゃない」
──パーティーを抜ける。そう自分が切り出すと二人は心の底からの言葉で引き止めてきた。
腕を組んだまま。……腕を! 組んだまま‼
「ごめん。勝手なんだけどさ、俺、自分の力がどこまで通用するか挑戦したくなったんだ」
王都で冒険者として挑戦したいと、二人に告げる。
──もちろん嘘である。
アズは怠惰な人間ではないが、かと言って向上心に溢れた人物でも無かった。日銭を稼いで糊口をしのげれば十分、そんな思想の持ち主であった。
アズの決意は固いと見た二人の目尻に涙が浮かぶ。
「分かったわアズ……。仲間の意思を尊重するのも、仲間の役目だものね」
「おいアズ! 困ったことがあったら呼べよ! 俺たちはズッ友だかんな!」
アズの目から涙が溢れた。己の矮小さに対しての涙だった。
こうしてアズは二人に見送られ、女戦士ちゃんとの思い出が詰まった都市を発った。
徐々に小さくなってゆく二人の姿は、米粒大になってもまだ手を振っているようだった。
アズは駆けた。余りの惨めさ故に。未練を振り切るように。
己が
実はアズ。親しくなったパーティの女性が他の男と一緒になるというのは初めてではない。
この街に来るまでも同じ様なことを何度も、何度も、行く先々で、繰り返し、繰り返し。仲良くなってはパーティーを脱し、今度こそはと意気込んでは空振りし。
故に噂の
人は彼をこう呼ぶ。『流離いの
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