恋愛でパーティーがめちゃくちゃになった俺。トラウマから女子禁制の条件でパーティーを募集するも男装美女しか集まらないんですが???
辛士博
プロローグ
──冒険者ギルド。
一攫千金を夢見る者たちの欲望渦巻く受け皿。
「乾杯~!」
酒場も兼ねたその一角、陽気な音頭が響いた。一体どんな冒険者だろうか、少しばかし覗いてみよう。
見れば四人組のパーティーが丸テーブルに溢れんばかりの料理を注文し、木製のジョッキを掲げている所だった。
四つのジョッキが鈍い音を響かせ、テーブルの中央でぶつかると衝撃で中の泡が零れた。
「おっと、勿体無い」
そう言って慌ててジョッキに口を付けたのは魔法使いのミルドレッドだ。
つば広の三角帽──エナンを被り露出の多いローブを纏う姿は、御伽噺から出てきたような由緒正しい魔女スタイルだ。
「はしたないぞミリー」
窘めたのは端正な顔立ちの騎士、マリオンである。
常在戦場を旨にする彼は食事中であるにも関わらず、兜だけを脱ぎ鎧を纏っていた。輝くブロンドが周囲の女冒険者の黄色い悲鳴をあげさせた。
彼は品の無い様子で酒を、料理をかっ食らうミルドレッドに嫌悪を向けていた。
「まぁ、いいじゃないですかマリオンさん。今日くらいは、ね」
険悪な雰囲気になりかけた二人の間に、優しく仲裁に入ったのが僧侶のブレアだ。
まだあどけなさの残る顔立ちのブレアだが、赤子の頃から僧院で教育を受けた彼は下手な大人より大人びている。
「お、そうだぜマリオン。今日は俺たち『
出るとこが出て引っ込むところが引っ込んでいる、垂涎の肉体を持つミルドレッドの口調は男そのものだった。
そうして彼女は最後の一人、アズという少年の肩に腕を回した。
なんとも覇気のない少年だ。彼は
アズはミルドレッドにされるがままで、頬に押し付けられている巨大な脂肪の塊に顔を赤くしていた。
「おい、よせよミリー」
「なんだぁ? てめ、俺の酒が飲めないってのかぁ? ほれほ~れ」
「うわっぷ! ま──ほんと止めろってうぼぼ! う、げほっ! げほげほっ! 鼻に入った……」
「止めんかミリー! アズを溺れ殺すつもりか‼」
「そうです! アズさんが嫌がってます!」
アルハラなんて言葉は存在しないこの世界であっても、酔っ払いがすることは大して変わらないようだ。
ちびちびとエールを煽るアズに対し、男らしくないとジョッキを奪ったミルドレッドが無理矢理ジョッキを傾けた。アズが抗議の声をあげ口を開いた瞬間、大量に流れ込んでくるエール。どころか鼻にまで入ってきて、アズは涙目で咳き込んだ。
するとマリオンならず温厚なブレアまで一瞬で激した。
「お、なんだなんだ? ブレアまで必死になって。……ははーん、さてはお前らアズにホの字なんだな──なーんてな! うわはは‼ ある訳ないか! 俺たち全員男だもんなー‼」
「そ、そうだ! ミリーにしては笑える冗談じゃないか‼」
「そ、そうですよぉ。アズさんなんて、ちょっと格好良くて逞しくて優しいだけじゃないですか。あはは~……」
ミルドレッドの「ホの字」という言葉に、マリオンとブレアの肩が大きく跳ねた。
そして二人は不自然なまでの早口で捲し立て、これまた不自然に笑い声をあげた。
三者三様の笑い声が、酒場の一角に響く。
そんな光景を、ようやく咳の治まったアズが口元を拭いながら死んだ目をして見詰めていた。
(……どうしてこうなったんだ?)
──四人組の冒険者パーティー『
その発足は半年前にまで遡り、発起人はアズである。
ギルドに貼りだしたパーティー募集の要項には「経験問わず!」「実力問わず!」「ただし男性のみ!」の文言が添えられており、そうして集まったのがイケメン
だが──ミルドレッドはどう見ても女だし、マリオンも分厚い鎧の下には立派なおっぱいが隠されている。ブレアだって、男に付いているべきものが付いていなかったりする。
つまりだ。女禁制である筈の『
(……ほんと、どうしてこうなったんだろう?)
そうしてアズは意識を半年前──マリオンとの出会いまで飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます