第4話
願い、願いて、願わくば。
吾輩に届けと願いたまえよ。
吾輩は悪魔である。
悪魔とは、願いをかなえる代償に人間の命を食らう。契約に基づき行動する。あとで反故になどできはしないのだ。契約がすべてであり、契約が絶対なのだ。
はてさて。
それにしても困ったものだ。
吾輩はママである。
ココロのママである。
金が欲しいと願った者には、使い切れぬほどの大金を与えてから食らいついた。
美しくなりたいと願った者には、類まれなる美を与えてから食らいついた。
偉くなりたいと願った者には、世界を我が物とする権力を与えてから食らいついた。
強くなりたいと願った者には、比類なき強さを与えてから食らいついた。
「ココロのママになって!!」
幼い少女は願った。
吾輩は願いを叶えるものだ。
ママを頂戴と願われれば、最高の母親を与えてから食らいついた。
だが、ココロは、ママを頂戴ではなく。
ママになってと願ったのだ。
ココロのママに。アルがママに。
ママとはなんだ。
ママとは母親だ。
母親とはなんだ。
子を育てるものだ。
否。
否。
たとえ子を捨てようとも、
たとえ子を育てなくとも、
ママとはママである。
子が生涯子であるように。ママとは生涯ママなのだ。
子が育ち、
子が親となろうとも、
子にとって、ママとはママのままなのだ。
契約絶対だ。
契約は遂行しなければならない。
ママがママでなくなる時はいつぞや。
ママが先に死ぬときか。
否。
否。
たとえ、ママが先に死のうとも
子にとって、ママはママのままである。
ではいつだ。
簡単だ。
子が死んだとき、
関係性は崩れ去る。
だが、そうなれば。
吾輩はココロを食らうことができない。
あの神父は地獄へ連れていく気だと心配しているようだが、死んだ命がどこかへ行けるとどうしてそんな世迷言を信じることができるのだ。
死とは無だ。
死ねば終わりだ。
ああ、
ああ、ああ、
契約とは絶対だ。
吾輩はママである。
アルがママに。
ココロのママに。
ああ、
ああ、
ああ、
なんと、
なんとも、
我がママだ。
あるがままに @chauchau
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