散歩
配達が終わって、外はちょっと暗くなりつつある。目の前を空タクシーが通り過ぎていった。
この街にいるのは後もう数日なので、思い出の場所だったりに最後に行こうと思う。
電気ビルの通りを橋北詰で曲がらずに、北に進むと右手に郵便局が見えてくる。その前がバス停だ。バス停には100人ほどの人が東に帰るのを待っている。多くは学生やサラリーマンで、みんな黙って下を向いている。
アスファルトの道には鉄の塊に、軽トラにバス。
バスの時刻を調べたら、すぐバスは来るらしい。
30秒ぐらい待つと来たバスに僕も含めて20〜30人が乗り込む。
僕は中ドアの入ってすぐのところに座った。前ドアから乗るバスもあるらしい。
整理券を発行する機械の取手がカタカタと音を立てている。
両中橋を渡るとそこは旧市街地だ。旧市街地には15銀行や赤線跡地があってそういう建物が結構残っている。15銀行の悲劇?についてはこの街で小学生を過ごした人はわかるはずだ。簡単に説明すると、空襲のときに15銀行の地下室に逃げ込んだ人が蒸し焼きにされた話だ。この辺りの古い建物もその空襲の後にできた建物だろう。
こういうバスを使った散歩は良くするんだけど、基本は建物を見て回ってる。
大学の専攻は建築だしね。
周りの人は設計事務所とかに就職するつもりみたいだ。その後独立して…自分の街でよく見る〇〇建築設計事務所みたいなのを、立てるのが目標みたい。
僕も昔はそういうのに憧れたけど、独立して、一人でやるならそれでいいんだ。しかし、従業員を野党となったときに問題が生じる。
僕は雇用主と労働者の関係は搾取だと考えているわけだ。
うちの新聞販売店も従業員には安給で働かせて、
店長は外車で店に来ている。
そもそも、金儲けだったりが好きくない僕にはそういう会社を経営的なのはできないね。
今回のところは例外的に景色を見る散歩だ。
石堂橋を越えると韓国人街があって、親に小学生の時は近寄るななんて言われたな。
雰囲気は好きだけどね。治安はあんまり良くないみたい。共産党の拠点もこの辺だ。
大学が近くにあって、大学生が多くこの辺で生活している。
大学には大正時代に建てられたレンガ造りの建物が多く残っている。一度、自転車で見に来たことがある。
寮からシャワーの音なんて聞こえて。廃寮になっちゃったんだけどね。
北側には公団住宅が立ち並んでいて、交通公園もある。
公団の窓からは白や橙の光が漏れてゆらゆらと揺れている。
門司まで75km。
貨物線の高架橋は貨物列車を乗せている。
貝塚、高須磨町を過ぎて、戦前にできた石造りの橋を渡ったところで降りる。橋は西鉄線、国鉄線そして国鉄の貨物線と並走している。
煙草の箱やぐちゃぐちゃのチラシが道に散らばって、誰も直そうとしない。
橋の東詰には古い住宅街が広がっていて、通り沿いには町工場が建っている。釣具屋なんかもあったりする。海が近いからね。
バス停は町工場の前にある。町工場の横から路地に入ると昭和の食堂や婦人会館、消防団の詰所を過ぎると都市高速の高架が見えてくる。
側溝の蓋なんかを数えて歩いていたら、学ランやセーラー服を着た学生服姿の若者が脇の公園から聞こえた。今日は卒業式らしい。
みんな、会えるのは最後になるかもしれない。
ちなみに僕は卒業式は行ってないね。卒業アルバムも卒業証書もすぐに捨てたね。学校は好きくないから。
辺りはもう真っ暗で、でもお星様は見えない。
高架下の長い横断歩道を渡ると、一つのライトで照らされた小道の奥の小高い山の上の城跡に暗く小さな神社がある。
急な苔の生えた石段を登っていく。
懐中電灯をカバンから取り出して、足元を照らさないと落っこちて死んじゃう。
この神社はまだ忘れられていないようだ。
上まで来ると星も見えるようになり、
社務所の灯りも消えて、
最近よくニュースで見る賽銭ドロボーの対策のためか固く閉じられている本殿の灯りと社務所横の自動販売機だけが神社の砂利が敷き詰められた境内を暗くしている。
波は砂浜と見間違えるほど静かで、遠くの貨物港の麒麟の灯りが海に跳ね返って目に入る。
手水舎は水は止められる。
さっき吸った煙草のせいか
口の中はどこか泥っぽい。遠い昔里山の匂いに似ている。
最近のおみくじは自動販売機になったらしい。
反対側は大きな鳥居があって階段の手摺は海に向かって一直線だ。
上からは低空飛行の旅客機の音がする。
下からは炊飯器の炊けた音がする。
些細な反乱 べべべ @gfhgsddfgjkljk
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