最後の配達場

最後の配達場はこのあたりではよく在る雑居ビルの最上階に住む地主。

正面からみるとよくある大通りに面した雑居ビルだけど、裏はコンクリート打ちっぱなしになっていて、隣のビルとの間にある幅80cmほどの湿った通路を通ると一本裏の路地に抜けられる。ライトはなく薄暗く、黒ずんだ換気扇が回っている。


隣のビルとの壁にはちょうど腰を掛けられるぐらいの段があって、僕はそこに腰を掛けてポケットから取り出した煙草に火を付ける。

上から見た感じこの通路の上にも部屋があるらしい。確か空きだったはず。

大通り側にはバス停があって、バスはひっきりなしに来る。

ドアの閉まる音とバスの激しいエンジン音が狭い通路に響く。

上を見上げるとラピュタの炭鉱のように水道管だろうか下水管だろうかの間に、数十年前も前に使われなくなったであろう埃のかぶった蛍光灯がある。

あの蛍光灯が付くことはないだろう。

改修の時かこの建物が取り壊される時までずっとこのまま忘れられたままだろう。

温かくなった煙の煙草の火を消して、重い体を動かし自転車を前に進ませる。ここから販売店まで帰らないと行けない。

「帰りたいあの場所はもう何処にもない」

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