2022/02/25

 虫けらはシイタケを始めとするキノコ類が嫌いである。大嫌いである。「いい歳をこいたオッサンが何好き嫌い言ってるのか」と諫められることもあるが、嫌いなものは仕方ない。とは言え、生物としてのキノコはなかなか興味深い。たとえばシイタケを栽培するときに菌を植え付ける原木、いわゆる「ほだ木」を10回叩くと収穫量が高くなるらしい。何故10回なのか、何故叩くと増えるのか、よく理由はわからないそうなのだが、なかなか面白い話だなと思う。


 地球上で最大の生物は何かご存じだろうか。この話の流れでおわかりの通り、これもキノコである。1992年、アメリカのオレゴン州で見つかった「オニナラタケ」は山1つ分がすべて繋がった1つの生物であり、全体の大きさは8.9キロ平方メートル(2200エーカー)、いわゆる東京ドーム684個分の面積だったそうだ。


 まあキノコはサツマイモではないので、引っ張っても山1つ分が芋づる式に引っ張り出される訳ではないが、何ともスケールの大きなことよと思うところ。キノコとして地上に出ている部分はあちこちに見えているのだが、地面の下に隠れている面積は想像を大きく上回る、大地下帝国を築いているのだ。


 とは言え人間世界も似たようなもので、普段は理屈として理解できはするものの、あまり日の目を見ることのない、どちらかと言えば見えにくい関係性が、大きな異変が起こると光が当たって明確となる。「まさかの時の友こそ真の友」という言葉があるようだが、実際そんなところなのかも知れない。


 21日、中米ニカラグアのオルテガ大統領は、ロシアによるドネツクとルガンスクの両地域に対する一方的な独立承認を支持し、同地域はロシア併合を望むだろうと演説の中で述べた。


 22日、カリブ海の国キューバの外務省は声明文で、現在のウクライナ危機の責任は、

「ロシア連邦の国境に向かって北大西洋条約機構(NATO)の漸進的な拡大」(ロイター)

 を進めたアメリカにあると述べた。なお、キューバはロシアに多額の債務を負っているのだが、その返済期限を2027年まで延長することが決まった後にこの声明文が出てきた模様。なかなか現金であるな。


 同じく22日、南米ベネズエラのマドゥロ大統領は、ロシアが行なっているウクライナへの軍事圧力強化を

「プーチン大統領がロシア人の平和と尊厳の権利を守っていることを、われわれは理解している」(時事通信)

 と擁護、2つの地域に対する独立承認を、事実上追認した模様。


 24日、中国外務省の報道官は定例会見でウクライナ問題に関し、

「中国は最新の情勢を注視しており、事態が制御不能となるのを避けるため、全ての関係者に対して自制を求める」(AFP)

 と述べると共に、ロシア軍の行動については西側の報道にあるような「侵攻」ではないとの認識を示した。


 同じく24日、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ベラルーシに展開していたロシア軍がウクライナ領内に侵攻した際、ベラルーシ軍からも攻撃があったとの報道に対し、

「目的は(ウクライナ東部)ドネツク州とルガンスク州でのジェノサイドを止めることだ」

「我が軍は参加していない」(以上毎日新聞)

 と関与を否定している。


 一方トルコのエルドアン大統領は24日、この問題に関して国家安全保障会議を召集し、大統領府は、

「ミンスク合意を破り、国際法に違反したロシアの攻撃は容認できない」

 と意見を表明している。また大統領本人も、

「トルコは領土を守るためのウクライナの闘争を支持します」

 とツイートした模様。


 ただ、見てわかるようにロシアが「侵攻」したとの言葉は使用せず、またウクライナ側から要請のあった、黒海に通じるボスポラス海峡とダーダネルス海峡のロシア軍艦通航禁止もスルーした。危険は冒さず美味しいところだけ持って行きたいのだろうな。


 これに対しEU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は24日、

「この苦しい時にわれわれの思いはウクライナや、この根拠のない攻撃で生命を脅かされている罪のない男女や子どもと共にある」

「われわれはクレムリン(ロシア大統領府)に責任を取らせる」(以上ロイター)

 とツイートした。鼻息が荒いのは結構だが、果たして何ができるのだろう。


 同日ドイツのショルツ首相は、

「ウクライナにとって恐怖の日で、欧州にとって暗黒の日だ」

「何をもっても正当化できない」(以上時事通信)

 との声明を出し、

 イギリスのジョンソン首相は、

「プーチン大統領は、流血と破壊の道を選んだ」(時事通信)

 フランスのマクロン大統領は、

「フランスはウクライナと連帯する」(時事通信)

 ポーランドのモラウィエツキ首相は、

「欧州と自由主義の世界は、プーチンを止めなければならない」(時事通信)

 と、それぞれツイートした。

 エストニアのカリス大統領も、

「すべての民主主義国と、現在の秩序への宣戦布告だ」(時事通信)

 と批判している。


 日本の岸田首相は25日、G7のオンライン形式での首脳会談後、

「金融・輸出管理等の分野で欧米と足並みをそろえ、速やかに、更に厳しい措置を取るべく取り組んでいく」

「25日中にも内容を明らかにしたい」(以上読売新聞)

 と、追加制裁を実施する考えを示した。


 そしてもっとも肝心なアメリカのバイデン大統領は24日、ホワイトハウスで演説し、

「ロシア軍は正当な理由もなく、必要性もないのに残虐な攻撃に踏み切った。プーチン大統領は侵略者で、彼がこの戦争を選んだ」

「この侵攻を見過ごすわけにはいかない。ヨーロッパと世界全体の自由が今、危機にさらされている」(以上NHK)

 と述べ、新たな経済制裁を追加した。

・ロシア最大の銀行を含む5つの金融機関がアメリカ国内に保有する資産の凍結

・航空産業などに必要な先端技術の輸出規制の強化

 だそうなのだが、5つの銀行の資産凍結はすでにイギリスが行なっているし、先端技術も元々それほど自由に輸出できた訳でもないはずだ。いまいちパッとしない。もっとも激烈な効果を生むだろうと言われていたSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除は結局取り入れられなかった。


 まあSWIFTからの排除は副作用が大きいというか、他の世界各国に経済的な影響が大きく出る可能性があるらしいから、慎重になるのもわからないではない。早い段階で使って、もし効果がなかったりしたら手の打ちようがなくなるしな。だが戦力の逐次投入というのはもっとも効率の悪い間抜けな兵法だ。ロシアに時間的余裕を与えるだけだと思うのだが。


 言葉というのは大事で、ハッキリ言わなければ相手には通じない。だから明確に意思を伝えたい相手には、相対的に強い言葉になるのは理解できる。ただ現状を見る限り、アメリカやEUや日本の言葉は勇ましさだけのこけおどしにしか聞こえない。ロシア側についた国々の指導者の言葉が歯切れ良いのとは対称的だ。まあ中南米の国なんてこの戦争が拡大したところで自分たちに火の粉がかかるとは思っていないだろうからな、気楽な事を偉そうに言えるのである。対して火の粉がかかる危険性の高いトルコの大統領が、八方美人になっているのは象徴的と言える。


 ロシア軍はチェルノブイリを制圧し、首都キエフを始めとする各都市に攻撃を加えている。防空システムは破壊され尽くした。戦闘機が落ちた、民間人が何人死んだ、そんな情報も上がってきているが、どれがどこまで信じられるのかは現段階では不明である。しかしたぶん、日本時間の今日中にはウクライナは降伏せざるを得なくなるのではないか。


 もちろんそれで終わりではない。国際社会はウクライナが開放されるよう尽力せねばなるまい。ヨーロッパや東アジアでは国防力の強化が訴えられるだろう。これはこの先に待つ大いなる全世界的な混沌の始まりに過ぎない。


 日本国内のtwitter界隈では、この戦争を受けて、右翼が左翼を叩き、左翼が右翼を叩いている。いま非難すべきはプーチン氏だけだと思うのだがな。何で日本人が日本国内を分断させて喜んでいるのか、まったくもって理解に苦しむ。そんなに国力を低下させたいのか。目の前で繰り広げられる暴力に興奮して攻撃的になっているのかも知れないが、叩くのはプーチン大統領か、シイタケのほだ木だけにしてもらいたい。

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