2022/02/23
22日、ロシアのプーチン大統領は記者会見において、ミンスク合意は失われ、ドネツクとルガンスクの親ロシア派勢力に対して条約に基づき軍事支援を行なうと述べた。なおその際、「今すぐ部隊が行くとは言っていない」とも述べたのだが、22日の時点でロイターがドネツクで戦車など軍用車両の車列を撮影している。どの軍に所属しているかを示す「記章」は確認できなかったとのことだが、2014年クリミア半島に展開したロシア部隊にも記章はなかったと言われている。
インタファクス通信の報道によれば、ロシアのラブロフ外相は22日、
「2014年のクーデター以降、ウクライナの政権が領土に暮らすすべての人々を代表していると考える人はいない」(ロイター)
と、ウクライナの政府は構成地域を代表していないと主張した模様。つまり、いまのウクライナには主権がそもそも存在していないと言うのだ。言うまでもないが2014年にウクライナで行なわれたのはクーデターではない。国民運動によって親ロシア派政権が打倒されたのである。
これはラブロフ氏の個人的見解ではあるまい。おそらくはプーチン大統領がそういう理屈を捏ねているのだろう。ならばプーチン氏の目標は、一部の人々が言うようなドネツクとルガンスクの実行支配とは思えない。それで終わる訳がない。ウクライナという国家の解体とロシアへの吸収が目指すべき最終的解答なのだ。
ウクライナの次はリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国を狙うだろうと言われているのも無理からぬこと。もはやプーチン大統領は傀儡政権を立ててNATOとの間に緩衝地域を作るとか、そういう次元では考えていないのではないか。もしソ連の版図を現代に復活させようと真剣に考えているとしたら、それをいったい誰が止められるだろう。
ロシアがドネツクとルガンスクの勢力を一方的に独立国家として承認した直後は「まだ軍事侵攻したとは言えない」と及び腰だったアメリカのバイデン政権は、21日に親ロシア派支配地域へのアメリカ人の新規投資などを大統領令で禁じたものの、さほど厳しい態度ではなかった。
だが、ロイターの報道が効いたのか、それとも他に何か証拠を握ったのだろう、22日には一転してファイナー大統領副補佐官がCNNに対し、ロシアの決定は「侵攻の始まりだ」との見方を示した。そして同日バイデン大統領がホワイトハウスで演説し、開発対外経済銀行(VEB)などロシアの銀行2行のほか、プーチン政権高官とその家族を制裁対象に指定して、
・アメリカの金融機関との取引禁止
・アメリカ国内の資産凍結
・ロシア政府発行の債券(ソブリン債)の取引を制裁対象とし、海外市場での米ドル資金の調達を制限
などの制裁措置を追加で発表した。
また同日イギリスは、ロシアの銀行5行と富豪3人のイギリス国内にある資産を凍結、ドイツは天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の計画停止を表明した。
そして翌23日、日本の岸田首相は、
・いわゆる2つの共和国(ドネツクとルガンスクの親ロシア派勢力)の関係者の査証発給停止と資産凍結
・いわゆる2つの共和国との輸出入の禁止
・ロシア政府による新たなソブリン債の日本での発行・流通の禁止
といった制裁措置を表明。
ハッキリ言えば、どれもこれもロシアにとっては従来の経済制裁とさほど変わりはない。極端に困って軍事侵攻を停止せざるを得ないような事態にはまずなるまい。特にドイツなど、場合によっては先にドイツの方が音を上げることにもなりかねない現状である。
この辺、自由と平等と基本的人権の尊重を錦の御旗として掲げる欧米や日本は立場が弱い。まして相手は核保有国、モスクワにミサイルを撃ち込めば話が終わる訳ではないのだ。そのことを誰より一番理解しているのは、おそらくプーチン氏だろう。これは極めて危険な状態だ。ウクライナ一国の問題ではない。民主主義は役に立たないというメッセージが世界中にバラ撒かれているのだから。次に動こうと画策している国は、いまじっと推移を見つめているに違いない。
この件で中国はいまのところ目立った動きを見せていないが、まあそれはそうだろう。ロシアの敵に回る必要はないし、かといってアメリカの味方をするメリットもない。中国としてはこの対立でロシアとアメリカ双方が国力を削ってくれれば一番有り難いのだから。
ロシアのウクライナ侵攻に合わせて中国が台湾を取りに来るのではないかという言説が流れていたが、少なくともいまの状況を見る限り、中国はすぐには動かないかも知れない。まだウクライナ軍が動いていないからな。ウクライナ軍がロシア軍を攻撃し――それがロシア側の一方的な発表であったとしても――ロシア軍が本格的に侵攻を開始したとき、アメリカがどう動くかが見たいのではないか。
そこで迂闊にアメリカ軍が、あるいはNATOが参戦し、ウクライナが泥沼の状態になったとしたら。台湾侵攻はそれを確認してからでも遅くはない。さすがにアメリカもそこは理解していると思うのだが、残念ながら現在のトップがバイデン大統領である。致命的な判断ミスを犯す可能性は無きにしも非ず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます