2022/02/16

 ロシアの国防省やインタファクス通信はロシア軍部隊の一部が撤収を始めたと言っているが、この話題が2度目だと報じているメディアは少ない。昨年の12月26日に、クリミア半島などに展開していた部隊1万人ほどの兵力が、訓練終了の名目で撤収するとインタファクス通信が報じている。そのときウクライナ周辺に展開していたロシア軍の兵力は9万人程度だった。だが、いまは10万人を大きく上回っている。ロシアの言う「撤収」とはそういうことだ。実際は「配置転換」に過ぎない。


 今日ロシア軍が侵攻するのかどうかはわからない。ブラジルのボルソナロ大統領がロシアを訪問するのが今日である。これがどんな意味を持つのか。ボルソナロ氏が来るのだから16日は避けよう、とプーチン大統領が考えてくれるなら、ウクライナ侵攻にかける意欲とはその程度であり、時間が経つほど減衰するのかも知れない。アメリカを始めとするNATO諸国はロシアのやりそうなことを情報としてバンバン流せば、ロシアは出鼻を挫かれていつまでたっても踏み出せないまま時間ばかりが経過するという展開に持ち込める可能性がある。まあ虫けらがロシア軍の偉い人なら、ボルソナロ氏の飛行機が到着するタイミングで空港近くにミサイルを撃ち込むのだが、そのくらいはロシアもアメリカも想定しているのだろう。


 一般に3月になって気温が上がり、凍り付いた地面が泥沼になれば戦車を中心とした陸軍戦力は移動が困難になると言われている。もちろん現代の戦争の主力は戦車ではない。ミサイルや爆撃機による空爆でウクライナの諸都市を破壊し尽くすことは簡単だ。だが、プーチン大統領はそれを望んではいまい。なるべくウクライナ側への被害を小さく、ウクライナ国民の反ロシア感情を最低限に抑えながら、傀儡政権を樹立してコントロールしたいと思っているはずだ。そのためにはもっとも被害が小さくなるであろう陸軍による制圧を目指すだろう。ならばタイムリミットはあと2週間もないかも知れない。


 将棋やチェスにたとえて言うのなら、いま盤面的にはプーチン大統領が圧倒している。だがギリギリのところで王手が打てない。どうしてもキングが取れない。決して難しい局面ではない。王手を打つだけなら簡単だ。ただし無闇にそれを打てば、相手が盤をひっくり返して殴りかかってくる可能性がある。そんなことになれば何のメリットもなくなってしまう。それだけは何としても避けたいのだ。そういう意味でプーチン大統領は困っているのだろう。


 正直なところ、ロシア側としてはアメリカを見くびっていたのではないか。バイデンごときに何ができる、と高をくくっていた可能性もある。それが実際にことを起こしてみると、案外定石通りに手を打ってくる。もちろんそれは周囲のブレーンが優秀だったということなのだが、ロシア側としては「あれ?」となったのやも知れない。EUの腰砕けは想定内だったろうが、イギリスがこうもチョロチョロ側面支援に回るとは、現在のイギリス政界の状態を見れば意外に感じたとしてもおかしくはない。


 アメリカやイギリス、EUがもはやボロボロの状態であるとプーチン氏が見做したのなら、その見方は間違っていない。ただそれでも潜在能力はあるのだ。そこを見誤ったのではないか。孫子の兵法の有名な一説「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」に照らし合わせてみれば、NATOのことも、そして自国の持つ力もよく知らずに軍を動かしてしまったのだろう。戦争をするにしても、あるいは戦争開始ギリギリで瀬戸際外交をするにしても、もっとよく知らねばならなかった、ということではないだろうか。


 なお、これは余計な一言かも知れないが、日本の総理大臣や、いつか総理大臣になる可能性のある与野党の先生方は、自衛隊の戦力をどの程度把握しているのだろう。防衛省に問い合わせればレクチャーを受けられる立場だと思うのだが、そういった話は聞こえてこない。戦闘機に乗った、戦車に乗った、記念撮影をして訓示を垂れた、そんな話ばかりである。ロシアが北海道沖に軍艦をズラリと並べたときにどうするのか、その程度は考えておいていただきたいと願うばかり。

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