2022/02/13

 アメリカやイギリスなどはウクライナから大使館員を撤収させ、日本などもそれに続いて邦人の退避を勧告。情勢は緊迫の度を日に日に増している。そしてとうとう、ロシアも大使館員を退避させ始めた。


 アメリカ政府からは15日に侵攻が始まる、まずはミサイルと爆撃機による空爆で対空戦力を削ぎ制空権を握るだろう、と具体的な話が漏れ出している。ロシア軍がウクライナ周辺にどんな兵器を配置しているかはすでに衛星画像などから判明しているし、そもそも最初に制空権を握るのは戦争の常道なので驚く要素ではない。つまりアメリカの軍人が「この配置ならこう軍を動かすのが当たり前」と判断できる規模の戦力の投入がロシア側ですでに完了しているということである。


 ロシアは戦争などするつもりはなく、ただウクライナを脅しているだけだ、という声はいまだにあるが、脅すためなら頭数だけ揃えればいい。制空権も兵站も考えずにただ人数を集めれば十分に脅しになる。戦争を可能にするシステムをわざわざ現場で組む必要はないのだ。


 もちろん、こうして騒ぐ事で国際世論が沸騰し、強い反発に恐れをなしたプーチン大統領が適当な落とし所を探す、という展開もまだ可能性としては残っている。とは言え、一度拳を振り上げてしまっているからな、何もせずに元に戻せるものなのかはロシアの国内事情によるだろう。


 何もせずに軍を引けば、当然「プーチンは弱腰だ」と国内から批判される。一方戦争が起きればプーチン氏への保守派の支持率が急騰し、政権は強固に盤石になるはずだ。ただし、この戦争は短期間で勝利しなくてはならない。もし勝利するにせよ、長期化すれば経済力の弱いロシア国内は疲弊し、逆に政権支持率は低下する。言い換えれば、短期間で完全勝利できると判断したから現状があるのだ。泥沼化する可能性が高ければ、こんな行動には出ていない。


 プーチン大統領は現在のロシアにおける事実上の独裁者であり、政敵らしい政敵はほぼ存在しない。だから仮にウクライナとの戦争に失敗したところで大統領職を辞さねばならない羽目にはなるまい。だが、国民が彼を許してくれるとは限らない。国内に革命の風が吹けば、彼の政治生命だけではなく、自身の生命まで危険に晒される。プーチン氏の態度には余裕が見えるが、実際のところギリギリの綱渡りを演じているのだ。


 しかしその綱渡りを完璧に渡りきってみせるという自信がプーチン氏にはあるのだろうし、アメリカやEUの首脳にはその覚悟も切迫感も危機感もない。どちらかが引かねば核戦争だという場に立ったとき、引くのがどちらかは目に見えている。アメリカなどがどれだけ経済制裁をチラつかせたところで、ロシア軍が引くはずがないのは当たり前と言える。本気度がまったく違うのだから。


 プーチン大統領が怖いのは、上記の通り戦争が長期化することだけだ。この点はアメリカやイギリス、EUも理解しているだろう。だから本音を言えば、「戦争を長期化させるぞ」とプーチン氏に向かって言ってやりたい首脳もいるに違いない。ただ、そんなことを言えば「核兵器を使うことになるぞ」とロシアから返って来るのは自明の理である。窮鼠は猫を噛むからな。追い詰めすぎれば大惨事を招く。


 ロシア軍は現在の地球上において最強の軍隊の1つだ。装備の近代化、兵士の数と熟練度、どこから見ても超一流である。ただし国の経済力が小さいために兵站は弱いと言われている。だからロシアは何としてもウクライナを短期決戦で攻め落としたいし、アメリカなどはどうにかして――核兵器を使わせずに――長期戦に引きずり込みたい。無論、戦争回避のための外交努力も続けられてはいるのだろうが、ロシアであれアメリカであれ、平和「だけ」を模索するような間抜けな真似はしない。


 プーチン大統領は言う。「アメリカが戦争を欲している」と。これは責任転嫁でも何でもない事実だ。アメリカは戦争が起こることを大前提としている。それはロシア側から見れば戦争を欲している態度なのだろう。だがアメリカ側から見れば当然ロシアも戦争を欲している。互いに現在の状況を自分たちに有利なように切り取って、情報として発信しているに過ぎない。


 我々戦場の外にいる者はその情報を冷静に精査し、よく考え、慎重に行動し、そして自分たちに火の粉が降りかかってきた際には、果敢にそれを払いのけたいところ。

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