2022/02/08
いま「平家物語」がアニメ化されて放送されているが、重大なネタバレをすると、何と、平家は滅びるのだ! ……まあそんな小ネタはともかくとして、一連の戦いの中で、攻める源氏と追われる平家の勢いの差をまざまざと見せつけたのが、一ノ谷の合戦であろう。源義経による、鵯越ひよどりごえからの奇襲が有名であるな。
鵯越とは播磨と摂津の境である一ノ谷の北側山の手、現在は兵庫県神戸市にある地域で、ヒヨドリが渡りのために春と秋にここを越すことから名付けられたという。余談だが、かつてヒヨドリは朝鮮半島と日本を行き来する渡り鳥であった。しかし時代と共に日本での生活に適応し、日本国内を移動する、あるいはまったく移動しない鳥になったという。いまでは日本各地で季節を問わず普通に見られる野鳥である。
閑話休題。いまさら説明するまでもないかも知れないが、鵯越は急斜面であった。鹿などの野生動物は降りるものの、人間の足では到底降りられない。まして鎧に身を固めた集団では降りることなど不可能と思えた。そのため平家の軍は鵯越を背に陣を張り、正面から来るであろう源氏を迎え撃とうと待ち構えていた。
しかし義経は「鹿が降りられるのなら馬でも降りられるだろう」と、とんでもないことを言いだし、実際に降りてしまう。大将に先陣を切られては他の源氏の面々も知らん顔はできない。意を決して馬で駆け下り、被害を出しながらも平家の軍勢の背後から奇襲攻撃をすることに成功したのだ。
この例からもわかるように、奇襲攻撃というのは一種の情報戦である。鵯越は人の足では降りられない、という情報があったればこそ平家はそちらに背を向け安心して陣を張り、その同じ情報があったればこそ、それを義経は逆手に取った訳だ。
平家が滅亡した壇ノ浦の合戦も同様である。当時平家の水軍は最強だった。それは過去の実績が物語る事実だ。これもまた情報である。だから海に出れば源氏は追ってこないだろうという、ある意味慢心とも取れる考えがあったのだろう。しかし、そこにあえて海上で戦を仕掛けた義経に追い詰められ、平家の軍勢は壊滅した。源義経という人物は発想が奇抜だとよく言われるが、実は情報の持つ意味を誰よりも理解していたのではないかと思えてならない。
義経に限らず、戦場における奇襲は情報の持つ意味を理解した者が勝利する。ただ無闇に誰かの真似をしただけでは勝てないのだ。それだけに、時代が下って現代に近付けば近付くほど、事前の情報操作が戦況を左右するようになる。太平洋戦争の開戦時、日本はアメリカに宣戦布告を行なわずに真珠湾攻撃を決行したが、これも情報操作である。律儀にクソ真面目に宣戦布告などしていたら、勝てる戦も勝てなかったろう。まあ最終的には負けたので、結果論的に見れば無意味な情報操作であったが。
さて、現在ウクライナ東側の国境付近にはロシア軍が結集している。これを巡って様々な人々が多種多様な見解を披露しているが、アメリカの情報機関筋の人間によれば、現場に近いロシアの当局者はウクライナへの全面侵攻について懐疑的な見方をしているらしい、とCNNが報じている。プーチン大統領や閣僚たちが想定しているよりはるかに莫大なコストがかかると考えられるためだという。
もちろん、だからといって現場の人間がプーチン大統領の命令に反旗を翻すとは思えないが、このようにCNNが報じたという事実がプーチン氏の耳に入れば、侵攻を思いとどまる可能性もゼロではない。ただしこの情報が、ロシア側がわざと流した偽情報でなければ、の話である。
もしかしたらこの先、「プーチンは侵攻を諦めたのではないか」的な情報が頻繁に流れるのかも知れない。もしそれが西側の一般大衆に受け入れられ、「無駄な戦争の準備などやめろ」とアメリカ政府に圧力がかかるような事態になれば、そのときこそロシア軍がウクライナ領内に攻め込むのではないか。いかにも現代の戦争である。
ロシアはウクライナと国境を接するところに兵員を配備しただけではなく、ウクライナの隣国ベラルーシでもロシア軍を増強している。ここまでして結果的に単なる脅しだった、で済めば物凄いラッキーなのだが、果たしてそうなるかどうか。プーチン大統領は真正面から物量で押し潰すつもりなのか、それとも情報戦の果ての奇襲攻撃を狙っているのか。予断を許さぬ状況である。
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