2022/01/27

 本格的に難しい言葉を使うには相応に専門的な知識が必要だが、そこまで難しくないが難しそうに聞こえて、なおかつ言葉の響きでなんとなく意味が伝わってしまう言葉というのは創作上便利である。特に中二病的な使い方をするのに最適だ。


 そんな言葉の1つとして「欺瞞ぎまん」がある。


「欺瞞に満ちたこの世界を! この俺が! この手で!」


 みたいなことを書けば一発で中二世界へ突入する。面倒臭い前振りや説明的なセリフを使わなくても済む点で非常に省エネである。


 欺瞞とは、「あざむくこと。だますこと」(デジタル大辞泉)を意味する。平たく言えば嘘をつくことだ。嘘ばかりがまかり通る世界は「欺瞞に満ちた世界」だし、嘘で塗り固められた外面をしている者は「欺瞞の仮面をかぶって」いる。


 また、そのものズバリ騙すことを「欺瞞する」という言い回しで表現したりもするが、現代ではあまり使われないように思う。「あの野郎、欺瞞しやがって」とか言っても、日本語として間違いではないのだ。いつの時代の人間だ、とは思われるだろうが。


 さて、2021年度の調査によれば、金額にして12億3200万ドル、順位にして世界第4位の武器輸出国がドイツである。中国よりももっと武器を輸出する国なのだ。まあ1位のアメリカの1割5分くらいの規模ではあるが、それでも武器輸出が立派に産業として成り立っている国であることは間違いない。韓国やギリシャ、イスラエル、トルコなどに輸出しているとのこと。


 中東やアフリカなどの紛争地帯にドイツ製の武器が出回っているかどうか、ザッとググっただけでは明確なデータは見つからなかったが、普通に考えてその辺にも流れているだろう。嫌味な言い方をあえてするなら、間違いなく「死の商人」の1人ではある。


 そんなドイツに、兵器類を急遽注文した国がある。ロシアの侵攻に怯えるウクライナだ。内容は報道によってイロイロだが、とにかく大量の武器を売ってくれ、とドイツに要請したらしい。これに対しドイツ政府は26日、ヘルメットを5000個供与すると発表したのだそうな。


 これについてドイツのクリスティーネ・ランブレヒト法務相は、ウクライナへの連帯を示す、


「非常に明確なシグナルだ」(AFP)


と述べたらしい。


 しかし受け取った側はそう思わなかったようだ。ウクライナの首都キエフのビタリー・クリチコ市長は、ドイツの日刊紙ビルトに、


「言葉を失った」


「われわれが対峙たいじしているのが装備の整ったロシア軍で、いつ侵攻が始まってもおかしくないことを理解していない」


「ヘルメット5000個なんて冗談もいいところだ」


「次は何を送るつもりだ? 枕か?」(以上AFP)


 と、激しくドイツを非難している。


 殺傷性能の高い武器をウクライナに渡せば、現状が戦争へと加速しかねない、というのがドイツ側の主張である。つまり「武器があるから戦争が起こる!」と言いたいのだろうか。あれ、どっかで聞いた話だな。何にせよ、ドイツが身を置く現実と照らし合わせれば、欺瞞に満ちた見解であるとしか言えない。


 ところで26日、フランスの首都パリでウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4カ国の高官協議が行なわれている。当然いまのウクライナ情勢について語られただろう、と普通なら思うところだが、そうではなかったらしい。


 4カ国は、いわゆる「ミンスク合意」、つまりはウクライナ東部におけるウクライナ軍とロシア系武装組織との戦闘について、


「無条件の停戦順守と2020年7月の停戦強化措置の完全順守を支持する」(時事通信)


 と表明した。この協議に参加したロシアのコザク大統領府副長官は、


「ウクライナの国内紛争の解決と北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に関連したウクライナ周辺の緊張緩和は別の交渉であり、互いに関係がない」(時事通信)


 と述べている模様。


 常識的に考えるなら、ウクライナはドイツとフランスを味方につけてロシアに対し緊張緩和を求めたかっただろう。しかしロシアがそれを許さなかったのではないか。そしてフランスもドイツも、ウクライナ側に立ってくれなかったのかも知れない。


 まあウクライナはNATO加盟国ではないので、NATOが守らなくてはならない理由は特にない。ただしウクライナがロシア領となればそれで終わりではない。ロシアは次の標的を探して軍を動かすだろう。すぐさまNATO加盟国に進軍することはなくても、この先NATOとロシア軍との間の軍事的緊張が高まり続けるのは間違いない。敵は1歩譲れば2歩踏み込んで来るのだ。ウクライナをロシアに譲れば、いずれドイツもフランスもロシアの支配下に入ることになる。果たしてそれでいいのかどうか。


 とは言え、ドイツやフランスの上流社会の人間は、国がロシア領となってもたいした影響はない可能性もある。その気になればいつでも国を捨て、外国で遊んで暮らせるだけの金があるのだから。苦しむのは庶民だけだ。国家というものもまた、欺瞞に満ちた幻想なのやも知れない。

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