2022/01/25

 虫けらはことわざが好きで、ここでもたびたび引っ張り出している。ことわざも一つの集合知というか、1人2人の感想ではなく、大勢の人間がそれを聞いて「ああ、その通りだ」と納得したからこそ、現代まで伝わってきている訳だ。


 もちろん人によっては納得の行かないことわざもあるだろう。だがそこに大勢の人間が納得する、ある種の正しさが一切ないと思うことわざがあるだろうか。人数と歴史の積み重ねという二重のフィルターを通ってきたことわざには、どれも一定の説得力があるものではなかろうか。


 ところで、この「ことわざ」という言葉の意味をご存じだろうか。昔から伝わっている含蓄のある言い回し、というのは確かにそうなのだが、ことわざには「諺」の漢字が当てられているものの、そもそもは「言業」、つまり神が人間の言葉を使って吉凶を知らしめたことを指していた、と江戸時代の国学者、本居宣長が「古事記伝」の中で述べているらしい。日本には古くから言霊信仰があるが、ことわざはその典型例であったのだな。


 実際ことわざの中にも「口は災いの元(口は災いの門かど)」「雉も鳴かずば打たれまい」など、言霊信仰をうかがわせるものがある。もっとも、英語にも同様の「A word spoken is past recalling.(口に出した言葉は取り消しがきかない)」という言葉はあり、信仰や文化が違っても、人間のやることに大差はないことがわかる。


 さて、この人はいまrecallingしたいのだろうか。24日、アメリカのバイデン大統領はホワイトハウスでの記者会見において、保守系メディアFOXニュースの記者の質問に対し、


「何て大ばかのくそったれなんだ」(AFP)


 とつぶやいたのをマイクに拾われたらしい。インフレは中間選挙で政治責任を問われる問題になると思うかという質問だったらしいが、虫けらは経済にまったく明るくないので、どれほど馬鹿な質問なのかはよくわからない。ただ、公人の中の公人たるアメリカ大統領が、マイクの前でこんな言葉を口から出すのは馬鹿なことだというのは理解できる。


 もちろんバイデン大統領にも言い分はあるだろう。特に相手がFOXニュースの記者であるというだけで、腹が立って仕方なかったのかも知れない。だが、これではほんの少し上品に見えるだけで、トランプ氏と変わりないではないか。そのうち記者を指差して「フェイクニュース!」とか言い出しそうな気がする。


 他にもFOXニュースの別のホワイトハウス特派員がウクライナ情勢について、どうしてロシアのプーチン大統領が動き出すのを待っているのか、とたずねたことに対しても、バイデン大統領は「なんとばかな質問だ」とつぶやいたのだそうだ。まあこれはわからんでもない。「だったら先制攻撃しろとでも言うのかよこの野郎」と言いたかったのだろう。しかしどちらにせよ、バイデン大統領自身が馬鹿に見えているのは間違いあるまい。


 昔から「馬鹿というヤツが馬鹿」とは言われているが、これはことわざではない。実際、馬鹿と言われる者の中には本物の馬鹿もいるからだ。説得力のない言葉はことわざにはならない。では説得力のない大統領はどうなるのだろう。




 そのアメリカは先般ウクライナとロシアに対しレベル4の渡航禁止を勧告したが、日本の外務省は24日、ウクライナ全土に対しレベル3の渡航中止を勧告した。現地にいる日本人に対しては、民間機が飛んでいるうちに帰国してくれと要請している。まあ、何もしないよりはマシである。特に判断が遅いということもない。


 ただ、海外安全情報というのは対外的なメッセージを多分に含むものだ。アメリカがレベル4の危険性を訴えたのに対し、日本がレベル3に抑えたのは、ロシアに気を遣っているのではないかという気がしないでもない。「日本はアメリカほどにはロシアを危険視していませんよ」とでも言いたげに思える。


 正直、無意味な弱腰ではないか。ロシアはこれを評価などしてくれないぞ。日本の政治家は何かにつけ「毅然とした」「断固たる」といった言葉を使うが、実際に毅然とした断固たる判断を下したのを見た記憶があまりない。対中国であれ対ロシアであれ、毅然とした態度は必要だし、それを支える軍事力も必要である。もうそろそろいい加減に八方美人はやめて、進むべき道を明らかにせねばならんのではないか。




 これまたウクライナ関連だが、アメリカの国防総省は24日、戦闘準備が完了している8500人規模の軍部隊を、いつでもヨーロッパに派遣できると発表した。NATO(北大西洋条約機構)が即応部隊を編成した場合、それに参加するそうだ。バイデン大統領もイギリス、フランス、ドイツなどの首脳とオンライン形式で対応策を協議している。


 これは現時点ではまだパフォーマンスというか、ロシアに対する圧力でしかない。しかしロシア軍が動けば、現実の戦闘となる。そうなった場合、アメリカはこの8500人の兵士を、最悪のケース、見殺しにできるだろうか。おそらくそれは不可能だろう。つまり戦闘が開始されれば、アメリカ軍が追加投入されるのは確実だ。そこからアメリカとロシアの全面戦争に至る可能性は、そんなに小さくはない。


 もちろんロシアもアメリカも真性の馬鹿ではないから、いきなり核ミサイルを撃ち込んだりはしないだろうが、ウクライナ領土内の局地戦で終始してくれるかどうかは開戦してみないとわからない。日本の米軍基地にロシアからミサイルが飛んでこないと断言できる者など誰もいないだろう。


 ウクライナでの戦闘が第三次世界大戦の引き金になるのかは不明であるものの、日本が巻き込まれる可能性は多少なりとも存在する。決して対岸の火事ではない。日米安保がどうのこうの以前の問題として、これはロシアの隣国である以上避けられない宿命である。日本政府は日本国民に、ウクライナ情勢をもっと徹底周知すべきではないかと思う次第。

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