B-22

「ふう…おなかいっぱいだ…♪」


 紡の朝ごはんをペロッと平らげ、俺の表情も紡にだけ見せる隙だらけの顔になっていた。


「…えへへっ///先輩、美味しかった??」と俺の表情を見ながらニコッとする紡に


「ああ、幸せな気持ちになる程にな…///」

「美味しいご飯をごちそうさまでした…///」


 紡に感謝の意を込めて…俺は、紡の髪をくしゃくしゃと撫でてあげたんだ。


「紡は座ってな?」


「…なんで???」


「片付けは俺がす…「やだっ!一緒にするっ!!!!」


 椅子から勢いよく立ち上がり、嫌だと拒む紡が「前みたいに、一緒に片付けようよ…///」なんて、俺から目を逸らしながらも恥ずかしそうに…そして、少しムッとしながら言うから…


「…っ!///わかったよ?じゃあ、一緒に片付けしような?///」


 その言葉と共に俺たちは朝ごはんの後片付けを一緒に仲良く始めていったんだ。


 ◇ ◇


 片付けている俺の横には紡がいて…スポンジでたっぷりと泡を作ってキュッキュッ♪とお皿を洗ってくれて、俺は俺で、紡が先に流してくれたお皿やシンク周りを掃除していった。


 まさに2人の共同作業ってやつだな…。


「…おわぁっ!!!?」

 ちょっとおっちょこちょいな一面がある紡は、スポンジから泡をよからぬ方へ飛ばし…


「ぁわわあぁっ!先輩!ごめんなさいっ!」


 泡が飛んだ先はそう、俺のよからぬところ…


「あーあ…紡…?ここ、濡れちゃったよ?」


「…っ!!!///」


 やっちゃった、どうしよう…と頬を紅潮させスポンジの動きを止めてしまう紡…


 そんな紡に俺は「ははっ!すぐ乾くから大丈夫だよ?むしろ、お前のその反応が可愛くて…仕方ないよ?」

 そのまま、紡のおでこにそっとキスをして…紡が真っ赤になってるのを他所に俺は、片付けの手を動き始めた。


 でも本当は、俺だって気持ちを強く装ったとしても…紡に鷲掴みにされたこの心は、平然を装うことなんて出来ていなかったんだよ…?


 ◇ ◇


 片付けも進み、気持ちも落ち着いた紡が、とある事を切り出してきたんだ。


「…先輩の弟くんは、羨ましいな…///」


 その言葉に俺の手はピタッと動きを止めた。


「…ん?どうしてだい??」


「だってさ、こんなに優しくてカッコよくて…時にちょっと意地悪だけど、頼りがいのあるお兄ちゃんなら…弟くんは絶対に幸せだと思うんだよね?」


「そ、そうなのか…?///」


「絶対そうだよぉ!先輩がさ、僕のお兄ちゃんだとしたら、僕なら絶対に幸せだなぁっ///」


 そう言ってくれて嬉しいはずなのに、ちょっとした切なさが俺の心を襲ってきたんだ…。


「…なぁ、紡??」


「うん?なぁに??」


「…俺が仮に兄ちゃんだとしてもさ…お前は、俺をか…?」


 兄としての愛ではなく、一人の恋人として俺を愛せるか?多分、そう聞きたかったんだ…。


「…ど、どうしたの?急に?」


「…い、いや、なんとなく…」


 なんでこんな質問を紡にしたんだろう…珍しく気持ちが何かに絡まった…。


 確信も根拠も何も無いのに…俺が探している弟が紡なら、さぞ嬉しいと思う反面、弟だとしたら恋人として見てもらえないのかも知れないという、訳も分からない劣等感に駆られた。


 むしろ勝手に紡を弟かもしれないと考えている俺もどうかしていたんだ…。


「…僕は、どんな形でも…先輩が恋人として大好きだよ…?///」


 緊張しくて、恋には小心者で泣き虫だった紡が真っ直ぐ…ベランダを見つめながら…


「先輩と前を向いて歩めるなら、それだけで…僕ね?…やっと見つけたんだよ?ずっと、そばにいたい人を…だからね?先輩、安心…」


「せ、先輩…?!」


 俺は、紡を見つめながら…涙を流していたようで頬をスっと伝う…一筋の俺の感情…。

 自分でも涙の理由がよく分からなくて「…ああ、ご、ごめんっ」と涙を拭った。


「紡、ありがとう…俺もずっとそばにいるから安心してくれな…?」


 俺は紡のことを後ろから包み込んでいく…。紡の手には、泡だらけのスポンジと小さく可愛い泡に包まれた両手…


「…もう、2度と…1人にしないでくれな…?」


「…もちろんだよっ…絶対1人にしないから…」


 そのまま俺らは少しの時間、ギュッと抱きしめあっていたんだ…。俺は、とにかく紡の温かさに心の底まで温められていたんだ…。

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