B-2

 ―その日の帰り


 俺と紡は、お互いの時間が合う限りいつも一緒に帰るようにしていた。


 今日も俺の助手席には、紡の姿があって他愛もない話をしながら帰る、唯一無二の幸せな時間だ。


「夏祭り、楽しみだな」


「うん…!先輩と行けると思うだけで僕、ほんとに幸せで…///」


 こんなキラキラな目で、可愛く話す紡を見るだけで、こっちまで胸がぎゅっとなる…。


「実は僕ね?お祭りに行くのすごく久々で…最後に行ったのは父さんとの時だったかな…?」


「そうか…」


 児童養護施設にいた時は、お祭りの気分にはならなかったようで、ずっと行ってなかったと

 嬉しさを滲ませる反面、少し寂しい思いをさせてしまったかな…?いや、これからは楽しい思い出を沢山、味あわせてやりたいんだ。


「そういえば紡?浴衣、持ってるか??」


「あー、お昼話してたよね!うーん…持ってないから私服で行こうかなぁって考えてたけど…」


「同じか、恥ずかしながら俺も持ってない。あの窮屈感があまり得意でなくてな…私服でもお祭りには変わりないし、2人で私服で行こうか。」


「僕は、それでも大丈夫!むしろ先輩と行ければそれだけで!!…でも、本当はちょっと着てみたかったけど…///」


 笑いながら話す紡に俺も笑みが溢れていた。やっぱりお前にはずっと笑っていて欲しいよ。


「そういえば聞いたこと無かったな…紡、身長何センチなんだ?」


「えっ?!急に…?!///…165…ごめんなさい、嘘つきました、164センチです…」


「1センチ足りなかったのかぁ!!ははっ!俺の1センチ分けてやろうか??」


「もぉ…!!先輩のばかぁ!!気にしてるんだからやめてっ!///」


 そんな他愛もない話をしながらも、紡に最高な夏祭りの思い出を残してやりたいと俺は、ずっと考えていたんだ。


 ふぅ〜ん…?164センチね…?


 ◇ ◇


 ―帰宅後


 月日が経つのはあっという間でよく考えてみたら1週間後に夏祭りが開催され、風物詩として夏を彩るらしい。


 窮屈で苦手、なんてのは嘘…。本当は紡と一緒に浴衣を着てお祭りに行ってみたかった。


 ''本当は…ちょっと…着てみたかったけど…''


 紡のあの言葉を思い出しながら…俺はスマホで紡が着れそうな浴衣を探し始めたんだ。


(へぇ…浴衣って、結構色々あるんだな…)


 浴衣もピンキリで色んな模様や色帯の色まで多彩で、どれがいいのかなと悩んでしまうぐらいだ。


 ただ、紡と言えば明るい色や明るいところが大好きで、イメージは『可愛い』一色。

 それでも紡の気持ちは、ちょっと背伸びをしたくて最近では『大人らしさ』も意識しているみたいだ。そのまま可愛いだけで十分なのにな…。


 紡の気持ちを視野に入れながら、俺はスマホに没頭していると紡に似合いそうな浴衣を見つけたんだ。


 白い浴衣でネイビーと水色の模様が入り交じっている。その模様は、観世水かんぜみず調と言うらしい。


 明るい色だけど、どこか大人らしさもあってこれなら紡も喜んでくれるかな…?紡に似合うかな…?そんな事を思いながら俺は、買い物カートにそっと入れ込んだ。


 俺は、どちらかというとシンプルが好みで、紡とは真逆のネイビーメインで帯は白だけの浴衣を選び、買い物カートへ…。


 買い物カートには、2つの浴衣。


 よし、これでいいな…。紡、喜んでくれるといいな…。その思いと共に買い物を終わらせ、夏祭りの日が来るのを俺は、いつもの日常と共に待ちわびていた。

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