B-3

 ―夏祭りの2日前


 いつもと変わらず、一緒に帰る俺たち。

 他愛もない会話の中で俺は、夏祭りの日に、まだ招待したことの無い俺の家へ来てみないか?と紡を誘ってみたんだ。


「え…?!先輩の家?!ぼ、僕…い、行ってもいいの…!?///」


 恥ずかしそうに、でも目をキラキラさせて嬉しそうに返してくれる紡。


「ああ、もちろんだよ。遊びにおいで?」


 「…やったっ!!楽しみだな…!!」


 ニッコリ微笑みながら、子どものように喜んでくれて…。そして、そんな笑顔で見つめられるとほんとに敵わないんだ…。


 『俺が幸せにするから』


 俺が言ったくせにお前といると…俺の方がどんどん幸せになっていくんだよ…。


「あっ!そうだ!先輩!」


「うん?どうした??」


「食べたいもの…ある??」


「どうした、唐突に」


「せっかく先輩のうちに行くから、もし良ければ先輩の家で、先輩の好きな物作りたいなぁ…って///」


 素直に嬉しい、考えてくれただけでも嬉しいんだ。でも、嬉しいけれど、うーん…作って欲しいんだけれど…そんな戸惑う俺の顔を紡が逃すはずなくて…。


「先輩、ご、こめん!…難しければ、またうちで作るから…っ!」


 作って欲しくない訳なんてどこにも無いんだ。むしろ作って欲しいし紡のご飯が恋しいのは当たり前で…でも、はぁ…もう言うしか無かった…。


「うち…ほとんど調理器具がないんだよ…」


 基本料理をしない俺は、調理器具をほとんど揃えていなかった。あっても基本的な物しか置いていなくてそれすら使う事がほぼない状態。


「ねぇ先輩!ちゃんとご飯食べてるの?!」


 恥ずかしながらそんな事情を紡に伝えると、ちょっとムッとした顔で初めて紡に叱られた気がした。


 言ってしまえば出来合いのものや外食ばかりで、紡の手料理を食べた事が久々の家庭料理で…栄養や身体のことにはあまり目を向けていなかった。


「もう、いつでも言ってよ…。ご飯作るから…///僕のご飯で良ければ、いつでも食べに来て…///」


 紡の言葉に俺の顔は真っ赤になった。こんな可愛いやつに怒られた後、逆に照れながら嬉しい言葉を告げられたら、俺だって耐えられない。


「で、でも…大変だろっ…?」


「…父さんがね?昔、料理を作りながら僕によく話してくれた言葉があって、美味しい料理は人を幸せにして、その分自分にも幸せが返ってくるって…。」


「僕の愛してる人にも、食べて幸せって思って欲しいし、それは僕の幸せでもあるんだよ…?毎日は難しくても、先輩の時間が許す限り、連絡をくれればご飯作るし、寧ろ会えるから嬉しいし、全然迷惑なんかじゃないから…///」


 照れながらも俺のためを思って一生懸命、言葉を紡いでいく姿に、もうだめだ…止められない…俺の理性はぶっ飛んでいったんだ。


 俺はその場で車を停めた。


「…おわっ!?先輩、どうしたの…?!えっ、せっ、せん…っ!///」


 そのまま俺は、紡の顔にそっと手を当てて、いつもより熱いキスを交わしたんだ…。

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