A-35
この後、僕たちはしっかりと食事を摂った。
何より嬉しかったのが僕より早く、箸を伸ばし「うん、本当に美味しい♪」と食べる度に微笑む凌空先輩に僕も自然と笑顔が零れたんだ。
―食後
「ふぅ…ご馳走様でした」
「お腹いっぱいになりましたか?」
「うん、幸せなぐらいなっ?」
先輩の微笑みに弱い僕は、顔がポっと赤身を帯びて、恥ずかしくなったんだ。
食べ終わってすぐに使った食器を手に取り、シンクまで持っていこうとする先輩。
「せ、先輩!いいですよ!後片付けは僕が…」
「ご馳走様って気持ちは、こういうところで返さないとな?作ってくれてありがとうって♪」
顔もイケメンだけれど、性格や考えもイケメンで、もう返す言葉が見つからない…。
ん!?…まてよ?!…返す言葉、ありましたっ!!!
「じ、じゃあ!一緒に片付けましょう?」
「…ふふっ、ああ、そうしようか♪」
僕たちは一緒にシンクに立つことになった。
これで、少しの時間でも凌空先輩の隣に居れると考えた、僕なりの作戦だったんだ。
シンクに使った食器を持って行く先輩が台所であるものを見つけて手に取った。
その行為に、あっ!っと思わず声が出てしまう僕…。そう、先輩が手に取ったのは、凌空先輩がくれた額入りの写真だったから…。
「ふふっ…本当、お前ってやつは…」
(それ以上、言わないで…!!)
「なんで景色じゃないんだよ…!」
笑いながら話す先輩に、もう恥ずかしさがMAXで先輩の顔を見る事が出来なくなった…。
あの時、僕が携帯で撮ったのは、景色の写真で額に飾ったのは、先輩が書いてくれた綺麗な文字。
“卵焼き、最高だった、ありがとう”
“今度は俺の為にも作って欲しいな”
を表にして飾ったんだ…。
シンクにガシャッと食器を置いた先輩は、僕に向かって微笑みながら囁き出した。
「…紡?」
「はいっ…!!?」
「こっち、おいで」
「…!?!?」
写真の一件と急な先輩の甘い誘惑に僕は、かなりテンパっていた。
「せ、先輩、ど、ど、どうい…///」
話が終わる前に先輩は、僕をぎゅっと抱きしめて、僕の耳元でそっと呟いた…。
「もう少しだけ、答えを待ってるから…。」
僕は、この言葉が凄く嬉しかった…。
でも、それと同時にどうしようもない感情に駆られたんだ…。
先輩が僕のことを好きでいてくれている事が伝わった瞬間、それと同時に僕が抱いている不安をこの人は、とっくに気づいていた…。
僕の覚悟や決心を、ちゃんと自分の中で整理が出来るまで、ずっと待っていてくれているんだ…。
「は、はい、必ず…返しますっ///」
今ここで…好きです、付き合ってくださいと言えたら良かったのかな…。
でも、違うんだ。僕の中であと一つだけ、ちゃんと整理出来ていないことがあったから…。
凌空先輩は、ゆっくりと僕を身体から離し「さ、片付けようか」といつも通りに微笑んでくれた。
覚悟を決めたいと思っていた僕に、覚悟を決める時間をくれた凌空先輩…。待たせてばかりで、本当にごめんなさい…。
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