A-36

 ―片付け後


 先輩が買ってきてくれたケーキを冷蔵庫から取り出しテーブルにそっと置き、取り皿とフォークを用意しながら「先輩、良ければ音楽聴きませんか?」と投げかけてみた。


「そうだな、紡の好みを知れるかもしれないしな!」


 と少し茶目っ気を出しながら話す先輩に僕は、少し頬を膨らませて反応した。

 そんな僕を見て「あはは」と返す先輩に、聴こう!なんて言われる前に流してやるっ…!そう思いながら僕は、コンポから音楽を流したんだ。


「…へぇ、紡このアーティスト好きなの?」


「…先輩もご存知ですよね?」


「もちろんだろ、知らない人いないだろ」


「ですよねっ!」


 誰でも知っている歌を流しても先輩は、聴き入れてくれたようで僕は、内心ホッとした。


「この歌手、父さんが大好きだったんです」


「へぇ~!まぁ年代だよな!」


「父さんが聴いていたから僕も自然と好きになって、今でもこうやってよく聴くんです。」


「歌詞がすごく力強いんだよな…この人」


「自分達のことを歌ってくれているようで、何だか力をもらえるんです。」


「うんうん、わかるよ、その気持ち。俺もよく聴くし。」


「え!?そうなんですか?」


「ああ、今度、車で流してやるよ」


「…えへへ、やった…!///」


 なんて話をしながら僕たちは、先輩が買ってきてくれたケーキを食べながら、お互いの趣味の話や音楽の話、料理の話を時間が許す限り、たくさん語り合ったんだ…。


 ◇ ◇


 話も花が咲き、気づけば日付が変わるところまで時計の針が進んでいた。


「あ、もうこんな時間…」


「寂しいけど、そろそろお開きにするか」


「そ、そうですね…」


「紡…?本当に幸せな時間だった、一緒にいれる人が紡でよかったよ…?///」


「ぼ、僕も、先輩と過ごせて…幸せでした…」


 楽しいひと時が終わりを迎えようとしている…。楽しい時間、幸せな時間は、いつでもあっという間だ。寂しそうにする僕に先輩が口を開いた。


「紡?次にゆっくり会えるのは、きっと体育祭の後だ、お前も部活忙しくなるだろ?俺も体育祭で最高のパフォーマンスをみんなに、そしてお前に届けられるようにするから、お前も最高の料理で周りを幸せにしてやってくれよ?」


 そうだ…気付けば体育祭まで3週間を切っていた。これから、どの部活もどんどん忙しくなってくる。そうなると、先輩にも会える時間が少なくなったり、連絡も取れなくなるのかな…?


 そう思っている僕に「それでもちゃんと連絡はするから」と先輩は、僕の気持ちを見透かしているかのようにニコッといつものように僕の頭を撫でてくれたんだ。


「ありがとうございます…!僕も先輩の歌、楽しみにしていますね…!」


 僕の言葉に先輩も嬉しそうにニコってしてくれて、そのまま帰る準備を始めた……。


「じゃあ、そろそろ帰るな?」


「…先輩っ!」


「ん?どうした?」


「…駐車場まで、送らせてください…///」


「ああ、一緒に行こうか…///」


 少しでもいいから…1秒でも長く僕は先輩と、一緒にいたかったんだ…。


 ◇ ◇


 先輩を送り出すために外に出た僕を00時の少し肌寒い風が包み込む…。

 駐車場に着き、先輩は運転席に座り、僕は外から先輩に視線を送った。


「寒いだろ?もう家に入れ」


「大丈夫です…!気をつけて帰ってくださいね?」


「ああ、ありがとう。ちゃんと寝るんだぞ?」


「はい、先輩も。ちゃんと寝てくださいね?」


「ふふ、じゃあ、行くな?」


「…はい、また月曜日」


「ああ、月曜日な、紡…おやすみ」


「おやすみなさい…」


 僕の言葉と共に先輩の車は動き出した。

 僕は、その場から動かず、先輩の車が見えなくなるまでずっとずっと、見送っていたんだ。

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