A-34
「…先輩!?大丈夫ですか!?」
「…うっ…ぐぅっ…ひ、ひくっ…」
こんなに取り乱す先輩は、見たことも聞いたことがない…。先輩、母さんって…1人にしないでって…やっぱり、相当寂しかったんだ…。
自分を偽って寂しさや悲しさを隠し通すだけで…なんとか、自分の気持ちを誤魔化そうとするだけで本当は、手一杯だったんだ…。
母さんを思い出さないように、自分を傷つけないように…誰にも悟られないように、誰にも弱みを見せないように…ぐっと堪えて、きっと1人の時は、涙も流していたのだろう…。
今の僕に、何ができる…?今、僕に出来る事…考えて、考えて…素直に言葉を紡いだ。
「先輩?先輩は1人じゃありませんよ…?大切な友達もいます…信じられる親友もいます…そして…僕もそばにいます…。絶対にもう、先輩を1人になんかしませんから…」
僕の言葉に先輩は、僕を強くぎゅっと抱きしめながら子どものように声を上げ、涙を流し続けたんだ…。
そう…僕が悲しかった時に先輩が僕を優しく包んでくれた時のように…。
◇ ◇
-少しして
目元は真っ赤だけれど、泣き止んで正気を取り戻した凌空先輩。僕と先輩の身体は自然と離れていたんだ。
「先輩、もう大丈夫ですか?」
「ああ、見苦しい姿を見せて本当にすまない…」
「そんな、見苦しくなんかないですよ…相当、堪えてきたんですね…」
「ああ、本当は…辛くてしんどくてさ、どうしようもないこともたくさんあった…」
「それは僕も一緒です…先輩の気持ち、痛いほど分かりますから…」
大好きな、大好きだった人を亡くした人にしか分からない苦しさや悲しさ…その気持ちを僕は、身体に刺さって痛むほど理解が出来る…。
少し沈黙があって凌空先輩が切り出した。
「なんでだろう…お前の手料理、すごく懐かしいんだ…」
「ど、どういうことですか…?」
「お前の料理を口に運ぶ度に…母さんとの思い出がどんどん浮かんできて…」
「…えっ?」
「なんでだろうな、ずっと恋しかった紡の料理が口に入る度に…すごく嬉しかった、幸せな気持ちになったのに…それと同時に、すごく苦しくなった…」
「そ、それは…」
「母さんの味にどことなく似ていた…」
「…ぼ、僕の料理が…?」
「…ああ…」
僕はちょっとした罪悪感に駆られてしまった。僕の料理で先輩を苦しめてしまった…?思い出したくない事を思い出させてしまった…?
「…でも…母さんとは違う、紡の気持ちが伝わってきて…母さんと違う温もりを感じたのは確かだ、本当にすごく美味しかった…」
先輩は、僕に話す隙も与えずに僕の両手を手に取り、ギュッと握りしめながら
「本当にありがとう…。この手で…俺のために美味しい料理を作ってくれて…」と僕にニコッと微笑みながら涙を一雫、流したんだ。
「僕、悪いこと…」
「ううん、なんにも悪い事なんてしていない。むしろ嬉しすぎるんだ…。また食べたい、これからもずっと…」
「せ、先輩…っ!」
「紡…?また、作ってくれるよな…?」
先輩は、僕の頭をいつものようにポンポンと撫でてくれたけれど、僕の顔は、紅潮するのと共に目に涙が溜まっていた…。
「もちろんです…また、美味しく作りますから…」と溜め止められない涙を流しながら先輩に返したんだ。
「ありがとう、紡…?残りも食べようか…」
「はい…」
「こんなに泣いたから…尚更お腹すいたもんな?」
「うん…先輩?…一緒にご飯食べよ…?」
「ふふ…もちろんだよ?」
この時、初めて先輩にタメ口聞いたんだ…。
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