A-33

―次の週末


 今日は、とうとう先輩が僕の家に来る日だ。この日まですごく長かったように感じる…。


 先輩とは変わらずLINEでのやり取りをしていたけれど、早く2人で会いたいもどかしさと先輩に僕のご飯を食べて欲しい気持ちが日に日に強くなっていたからなんだと思う。


 先輩が僕の家に来るのは17時。


 よし、準備しよう…!先輩、楽しみにしててね?僕は、緊張しながらも先輩を招く準備を始めた。


 ―17時


 ピンポーン!


 時間が近づくに連れてソワソワしていた僕は、来る時間が分かっているくせにインターフォンの音に身体がビクッと反応した。


 緊張しながら家のドアを開けるとそこには、いつもと変わらず優しい笑顔の凌空先輩が立っていたんだ。


「よっ、待たせたな」


「いえ!なんも待ってません!時間ピッタリです!」


「ははっ、おじゃましていいか?」


「も、もちろんです!…どうぞ!」


 嬉しさと恥ずかしさ、緊張もしながら僕は先輩を家の中へ通した。


「あ、そうだ紡、これ」と先輩が僕にケーキ箱を渡してくれて「後で一緒に食べよう?」とニコッとまた微笑んでくれたんだ。


「ええっ。手ぶらでよかったのに…でも、嬉しいですっ!ありがとうございます。」


 ちゃんと手土産まで持ってきてくれて、ほんと気が回る人だな…。僕は、ケーキ箱を受け取り中身を崩さないようにそっと冷蔵庫に入れた。


「そうだ先輩、お腹空いてますか?」


「ああ、もうペコペコだよ」


「よかった…!ご飯これから温めるのでテーブルのイスにかけて、待っててください♪」


「ああ、わかったよ」


 僕はキッチンでご飯の用意をし、先輩は僕がいつも座っているイスに腰をかけて部屋を見渡したり、少し落ち着かない様だった。

 はたから見れば恋人同然のようだ…。


「部屋、綺麗にしてるんだな…」


「えっ?き、綺麗ですか?」


「これを綺麗と言わなければ何が綺麗なんだ…ってほどじゃないか…?紡、A型か?」


「はい、一応…!」


「一応はいらないかもな!この部屋、すごく居心地がいい。そして何より温かい。」


 居心地が良くて、温かいなんて言われて嬉しくないわけ…ないじゃんかっ…!やっぱり、先輩はずるいよ…!僕の顔はいつものように紅潮してしまった。でも、今日は2人っきりだ。僕だって負けずに話しかけてやるっ!


「っ…!そ、そういう先輩は?」


「ふふっ♪さぁ、何型に見える?」


「う~~ん…あっ…!車、すごく綺麗だったしとってもいい匂いしたんですっ…!…先輩もA型?」


 僕のしれっと放ってやった、いい匂いがしたんです!に少し顔を染める先輩。


「…残念、O型♪」


「…ちぇっ!外れた!」


 僕たちは、同じタイミングで「ふふっ!♪」っと笑いあった。

 すごく楽しい…!僕は、この時間をずっとずっと、楽しみにしていたんだ…。


 その後は、会話しながら温め終わったご飯を先輩が座るテーブルに運んでいく。


「おお、これ…全部…」


「先輩のために作りました…!」


 今日のメニュー…

 僕の思い出のメニューは


 ・白米

 ・大根と油揚げの味噌汁

 ・筑前煮

 ・だし入り卵焼き

 ・ほうれん草のおひたし

 ・肉じゃが


「和食か…!」


 そう、僕が作ったのは和食オンリーだった。料理の基本として、父さんが僕に何度も教えてくれたおかず達だったんだ。


「…嫌いでしたか?」


「いやっ…!むしろずっと食べてなかったからすごい嬉しいっ…///」


「よかった…!冷めないうちに食べましょうか!」


「ああっ…///」


 僕たちは、お互い手と手を合わせて「いただきます」とご飯に一礼をした。

 先輩、何から手をつけるのかなっ…!ちょっとした好奇心が僕の鼓動を早くする。


 …!!やっぱり卵焼き!僕のドキドキとは裏腹に、嬉しそうに卵焼きを取る凌空先輩。


『卵焼き食べた瞬間の先輩、先輩ってあんな顔するんだ…ってちょっと驚いたんだよね…』


 美味しい!って言って欲しい気持ちの他にも初めて卵焼きを食べてくれた時に深結が見た先輩の表情、それが僕は気になっていたんだ…。


「…ぱくっ!」


 僕の卵焼きが口に入った瞬間…

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(凌空…??美味しい…??)

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「…はっ…えっ…」


 無言で筑前煮にも手をつける凌空先輩…


「…ぱくっ…」

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(……こら!凌空!野菜残しちゃダメって言ったでしょ!?)


(…だって…!嫌いなんだもん!!!)

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 肉じゃがにも手を伸ばす、凌空先輩…でも先輩…は、箸が震えてる…


「…はぁっ、はぁ…」

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(…これ…なんていうか知ってる?)


(お、おふくろの味…だろ…?)

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「…かっ…」


「かあ…さん…」


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(…照れんなって!)


(…照れてない…)

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「…お願い…」


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(…美味しい?そう…!よかった…!)

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「…お願いだから…もう1人にしないで…」


 …せ…


 …先…ぱ…


「…先輩!!?」


 僕の食事を口に運んだ先輩が僕の目の前で見たことない程に泣き崩れていったんだ。


「うぅ…うう…ぅっ…」


 嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる先輩に僕はど…どうしたらいい…?かける言葉が…見つからない…。

 そんな僕は、先輩の元に寄り添って…前のようにぎゅっと先輩を抱きしめるしか出来なかったんだ…。

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