A-32
―次の日―
昼になり、僕たちはいつもと変わらず食堂にいた。ほぼ一緒に過ごす事が僕たちのルーティンになってる。
「そうだ、紡、相談ってなんだったんだ?」
僕は、グループラインに相談したいことがあると昨日の夜に送っていて、お昼に話すことになっていたんだ。
「実は、来週末…先輩が家に来ることになりまして…」
それを聞いた3人は「紡ぅ〜!よかったね♪」とすごく喜んでくれたんだけれど、僕の心に突っかかってるものはそこではなかった。
「で、でもね?問題はそこじゃなくて…僕、なんだか怖いんだ…。」
どんどん先輩を好きになっていく上で、ファンからの目線や行動、言動を考えると怖くてたまらなくなった…。
周りからどんな風に思われるのか、すごく怖くて…。僕が愛してしまったら、先輩も傷付けてしまうかもしれない…。
恋なんかまともにして来なかった僕には、不安なことだらけで、日に日に自分に自信がなくなっていたのも事実なんだ…。
喋りながらどんどん俯く僕の顔を深結が下から顔を忍ばせて優しく切り出してくれたんだ。
「ねぇ、紡?そこを決めるのは先輩なんじゃないかな?」
(…え…?)
「紡は、先輩のことが好きなんだよね?でも先輩の周りにいる人の目線や行動、それを考えて不安や怖いと思うのは、紡が先輩を困らせたくなかったり、傷付けたくないって気持ちもあるから、考えちゃうんじゃない?」
そうだ…間違っちゃいない…。好きな人を傷付けたくない、傷付く姿は見たくない。
「先輩には沢山のファンがいるし、ファンから先輩と付き合ってて軽蔑された目で見られるのも怖いよね?正直、全員にこの恋を祝福してもらう事も難しいかもしれない。でもそれは、紡以上に先輩も重々承知の上で、紡に向き合っているんじゃないのかな?」
「認められないカタチの恋だとしても、好きな人が出来て、その好きな人と楽しい時間を過ごしたり愛を紡いでいける事は、とても幸せな事なんじゃないのかな?現に、男と女だから絶対に幸せになれるかって言われるとそれが全てじゃ無いでしょ??」
「周りの気持ちに振り回されないで、周りの悪い声なんて気にしないで、しっかり先輩のこと見つめてあげて?私の知ってる紡なら出来るはずだよ??」
また僕は、1人で悪いことばかり考えていたのかな…。好きって気持ちが膨れ上がるにつれて、先輩の覚悟や気持ちを気付かないうちに置いてけぼりにしていたのかな…。
「何かあったら紡も先輩も俺らが支える!」
「紡?ここにはいつでも理解者がいるよ?」
「だから、ね?紡!怖がらないで、先輩との恋を紡いでいって?私は、紡に幸せになってもらいたい!」
みんなの言葉に救われて、支えられて…。
そして先輩の気持ちをもっと大事にしなきゃ…もっと堂々と先輩と向き合おうと思えたんだ…。
「3人とも…本当にありがとう…!僕、頑張って向き合ってみるよ…!」
「紡のその優しさで、逆に先輩を包んであげてね?」と深結は最後まで僕にニコッと笑ってくれたんだ…。
◇ ◇
「ちなみにさ、来週末、何作る予定なんだ?」
僕の相談話も落ち着き、話題は洸の一言で来週末の事に切り替わっていた。
「それが、まだ悩んでてさ…卵焼きは決まったんだけど、それ以外は紡の得意料理でいいって言われてね…」
「おまかせって結構しんどいのよね、何作ろうかすごく悩むし、相手の好みもあるもんねぇ…?」
「あっ!紡!良いこと思いついた!それならさ、紡の思い出の味なんていうのはどうかな?」
深結が得意気に提案してくれたんだ。
僕の思い出の味…?父さんとの味ってこと…?
「好きな人に振る舞うんだから、紡の思いも詰め込むでしょ?だったらお父さんと作った思い出の味をそのまま凌空先輩にぶつけてみたらどうかな?」
「なぁ…深結、お前、今日冴えてねぇか?」
洸が深結のおでこに手を当てて、熱を測ろうとしたけれど、深結はそれをバシっと振り払った。
「え?!なによ~っ!私、いつもこんな感じじゃん!!!」
「え〜っ?そうかなぁ~?」
「もぉ~っ!灯里までぇっ!!!」
ムキーっとする深結を見て、あははっと笑いが生まれる僕たち。
(思い出の味かぁ、いいかもしれない…!父さん、力貸してくれるかな…?)
そんなことを思いながら
「深結ありがとう!僕、頑張って思い出の味、作ってみるよ!」
その言葉にみんなもニコッと微笑んでくれて「きっと先輩喜ぶよ!」と応援してくれたんだ。
(うん…!頑張って、先輩のために美味しいご飯を作ってみようっ…!)
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