A-29

「…先輩!?」


 はぁはぁと息を切らし駆け寄ってきた先輩…ど、どうしてこんなに急いでるの!?


「せ、先輩??あ、あれ?部活の時間なんじゃ…」


「…っ…」


 どうしたんだろう、でもなにかあったからこんなに急いでるんだろうけど…先輩の気持ちが少し読めなかった。


「…お、お前に会いたくなったんだ…」


(ええっ…!?ど、どういうこと!?)


 ◇ ◇


 -軽音部-


(はぁ…紡の卵焼き…一緒に食ってやれなかったな…)


「お、いたいた、ミーティング終わったんだな」


「ああ、一緒に食事出来なくてすまなかった」


「…謝るのは俺じゃないんじゃないか?」


「…どういうことだ?」


 陽翔が紡から預かったであろうタッパを俺に渡してくれたんだが、その中身は空っぽだったんだ。


「卵焼き…入ってないじゃないか」


「途中で俺が食ってきた」


「は?お前…」


 こいつ…マジで何してくれてんだ…?今日、俺が1番楽しみにしていた卵焼きを食ってきたってどういう事だよ。


「こーでもしないと…お前は話さないだろ」


「お前、何してくれてんだよ!!」


 俺は陽翔に向かって感情的に声を上げたが、陽翔も引こうとせず、俺に向かって感情を爆発させたんだ。


「お前こそ何してるんだよ!最近のお前はずっと、お前らしくないんだよ!」


「…ちっ、何がだよ!」


「何がって、気付いてねぇのかよ!いや、んなわけねぇよなっ?!絶対に人に見られちゃいけない新曲の楽譜を忘れてきたり、ファンの前でボーっとしたり」


「っ…黙れ!」


「黙らねぇよ!はぁ…お前さ、紡の事、好きなんだろ?紡が現れてからお前、変わったよな」


 なんでお前にそこまで言われなきゃならない…人が誰を好きになろうが俺の勝手だろ…!


「…っ!お、お前には関係…」


「関係ある!!!」


「…っ!!」


 今までの言い合いの中で1番強く、陽翔は感情をあらわにしたんだ。


「なぁ、凌空…俺ら親友だろ…?親友がお前の幸せを望んじゃダメなのか?」


「そ、そんなことは…」


「なら1人で隠し通そうとするなよっ!お前はいつもそうだ…。1人で抱え込んで、1人で解決しようともがいて、俺になにも言ってくれない…。それと、お前はこの軽音部の部長。絶対にお前が欠けちゃダメなんだ…!みんな、お前の力が必要なんだよ…!」


「陽翔…俺の感情で色々心配かけてすまなかったな…しっかり気持ちを整理するよ。」


「謝んな…むしろ卵焼きは完璧、俺が悪い。ただ…」


「…ただ、なんだ?」


「出来れば早めに紡に会ってこい」


「な、なんで…」


「お前が来れないってわかった時のあいつの寂しそうな顔、俺は見てられなかったんだよ」


「…っ!」


「多分、あいつ、誰よりもお前に食べてもらうのを一番楽しみにしていたんだと思うぞ?」


「…っく…ちくしょうっ!!」


「だから、今すぐ行ってやれ」


「陽翔…本当にありがとう…」


「戻るまで部の事は任せろ」


「…ああ!」

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