A面-母の味、抑えきれない感情
A-27
今日もいつも通り、いつもの場所で洸と落ち合い一緒に大学へ向かっていく。
「昨日、ちゃんと話せて本当によかったな!」と僕に笑顔で語りかけてくれる洸。
(洸が辛い時は、僕も支えてあげないと…)
そんなことを思いながら僕たちは、いつも通り他愛もない話をしながら、大学へ向かっていったんだ。
大学に着くと、深結と灯里が待っていてくれて洸と同じように僕に優しい言葉を掛けてくれた。
でもこの時、僕はあることに気付いた。
僕、まだ灯里にちゃんと話してないじゃん…
灯里が僕の気持ちを察しているのは分かっていたけれど、ちゃんと伝えないといけない、そう思ったんだ。
「ねぇ?灯里…?僕ね…」
「凌空先輩のことが好きなんでしょ?」
「…へ?!」
「気付いてたし、私、そういう偏見、まーったくないから♪寧ろあの、カッチンコッチンに固まった頭の男を突き動かす紡の方がすごいわ!」
あはは…カ、カッチンコッチン…
その後、深結と灯里の軽音部話が繰り広げられたんだ。
「それは言えてるかも!軽音部で活動してる時はクールで怖い印象だし、よくいる逆らえない先輩って感じ!そしてライブ以外、絶対に笑わないしっ!」
「でも案外それがいいのよね!周りを楽しませよう、俺たちの音楽でみんなを笑顔にしようっていう彼の本気が伝わってくるから!」
「そうそう!!!先輩のボーカルに合わせて奏でられる私たちって、本当に幸せものなのかもね!?」
凌空先輩って、本当にすごい人なんだな…
そんな事を考えながら2人の話を聞いていた僕に灯里がビシッと決めてくれた。
「話は逸れたけど、そういうことだから気しないでね?私も紡の恋を応援するからっ♪」
と笑顔で返してくれる灯里に僕も「…うん…!本当にありがとう…!」と返したんだ。
その後、学部が違う灯里とは別れ、洸に「灯里ってかっこいいところあるよね!」と僕は問いかけたんだけど、なんだか洸の様子が少しおかしくて「お、おう…そ、そうかもな…」とぶっきらぼうな返答が返ってきたんだ。
(あれ…洸…もしかして…?)
そんな事を僕が思っているよりも先に深結がニヤニヤしながら洸に問い詰めたんだ。
「…あんっれれぇ??洸、もしかしてぇ?灯里の事ぉー??」
「あぁっーー!!!み、深結!!それ以上言うなぁあぁ!!!!///」
僕は、顔が真っ赤に紅潮した洸の姿を忘れられないんだ。だってこの時の洸、本当に顔が真っ赤っかだったから。
◇ ◇
午前の授業も終わり、僕たちは食堂へ向かっていた。
「ねぇ…2人ともなんかソワソワしてない…?」
「だって…ねぇ?洸?」
「なんったって紡の卵焼きを食べられるんだぞ!?そりゃぁソワソワすんだろ~!!!」
そ、そんなに楽しみにしてくれてたの?!僕はその気持ちだけですごく嬉しかった。
食堂に着き、深結と洸はいつも通りメニューを選んでいる。そして、お弁当の僕がいつも通り、特等席を取りにいき、陽の当たる僕たちの特等席に以前のように5つの容器をテーブルに並べた。
みんなに食べてもらう事が久々で、ちょっと緊張する僕の元に洸と深結が食事を持ってやってきたんだ。
…あれ?いつもなら洸は僕の横に座るのに、今日は洸と深結が僕の向かいに座ってる…??
「あれ?洸、僕の隣じゃ…」
「おいおい、今日は先輩が来るだろ?」
と茶化す洸。急に顔が紅潮する僕に深結が
「紡、楽しみだね♪」なんていうから僕は、恥ずかしながらも
「うん…実は、すごく楽しみ…!」と照れながら返したんだ。先輩…美味しいって言ってくれる…かな??
間もなくして、灯里と陽翔先輩が僕たちのところにやってきた。
「3人ともお待たせ!」
灯里は深結の隣に座り
「おお、卵焼きだ♪紡!昨日は無理言って悪かったな」
陽翔先輩は僕の隣に座ったんだ。
…あれ、1人足りない…
…あれ…??凌空先輩は…??
「先輩…凌空先輩は…?」
「ああ、そうだ、凌空からこれをお前に渡してくれって…」
陽翔先輩から渡された付箋には、凌空先輩の綺麗な文字が並んでいた。
“紡、悪い、どうしても昼に行けなくなった。
良ければ陽翔に卵焼きを渡しておいてほしい。せっかく作ってくれたのに本当にすまない。”
「どうしても緊急の部長ミーティングに参加しなきゃいけないみたいで、来れなくなっちまったんだよ…紡、悪く思わないでくれよ?」
(そうか、こればかりは…仕方ないよ…)
そう思いながらも僕は寂しそうな顔をしていたようだ…。その僕の姿を見て、申し訳なさそうにする陽翔先輩…。場の空気が少しだけひんやりとした。
そんな僕たちにいつも明るく切り出してくれるのが洸なのである。
「…まぁまぁ!まずは、紡が作ってきてくれた卵焼きをみんなで食べましょうよ!」
と皆を笑顔で誘導してくれて、その問いかけにみんなにも笑顔に戻って、僕の卵焼きに手をつけてくれたんだ。
洸…本当に、いつもありがとう…。
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