A-25

―帰り道


「そういえば先輩、なんで僕にお母さんの話をしてくれたんですか?」と鈍感な僕は、先輩にそんな言葉を投げかけてしまった。


「ははっ、なんでだと思う?」と凌空先輩は微笑みながら僕に返してきた。


「う~ん…」


 先輩の気持ちに気付いていない僕に対して先輩は「紡が俺に自分のことを教えてくれて、俺も俺のことも知ってほしいと思ったからだよ?」


 ぼ、僕に先輩を知って欲しい…?!その言葉に僕の顔は、またまた真っ赤に染め上がる。

 そんな僕を見て、ふふっと笑う先輩。


「紡だって、俺に色々知って欲しくて話してくれたんだろ?」


「…そ、そう、ですけど…///」


「じゃあ、お互い様って事にしておこうぜ?あ、それとこの話は、2人だけの秘密にしてくれよ?」


「え…?どういうことですか??」


「察しろよ…今まで誰にもこの話を話した事がないんだよ…///」


 ん…!?…えええええええ!?

 この話、知ってるの僕だけ…!?


 嬉しい反面、すごく恥ずかしくなったんだ。

 だ、だって…僕にだけ本心を打ち明けてくれたって事だよね…??も、もしかして先輩、僕のこと…!?


 あわあわと気が動転している僕に先輩は「ふっ」と鼻で笑いそのまま、目を外に向けた。

 実はこの時、すっごい小さい声で「ほんっと…可愛いわ…」って凌空先輩、呟いていたらしい。


「そうだ紡、そこにある俺の携帯持って?」


 助手席のダッシュボードの上には、先輩の携帯が置いてあって僕は、言われるがまま手に取り言われた通りに携帯の画面を開いた。


(えっ…パスかけてないんだ…)


「先輩、開きましたけど…どうしたら…?」


「お、お前が嫌じゃなければ…お前の番号、教えてほしい…」


(あああぁぁ…!!…嫌なわけ無いじゃないですかっっ!!///)


「い、嫌なわけないですよ!むしろ、ぼ、僕もほしいです…!///」


 先輩も嬉しそう、でもどこか恥ずかしそうに「じゃあ、番号入れて?」と返してきた。

 こんなに恥ずかしそうにしている先輩は、きっと僕しか見た事がないのかもしれない。


 僕は先輩の携帯に自分の番号を入れて、その後、先輩の携帯からワン切りして僕も先輩の番号を頂いた。


「先輩、出来ました…///」

 僕は携帯をダッシュボードにそっと戻した。


「…帰ったらLINE送るな?」


「…はい、待ってます…!///」


 この日とうとう、僕と先輩は連絡先を交換した。僕にとって【連絡先】という宝物が1つ増えた大切な日になったんだ…。


 ◇ ◇


 結局、先輩は僕を家まで送ってくれた。


 僕は、家を覚えられちゃった事が嫌なわけではなく、どこか嬉しくなったんだ…。


「先輩、今日は本当にありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね?」


「ああ、こちらこそ今日はありがとう。」


「あ、そういえば」と徐に先輩がカバンからクリアファイルを取り出し僕に渡してくれた。


「本当はこれ、コピーする予定だったんだろ?ページ間違ってたらすまん。このページのまま開いてあったからコピーしておいたよ。」


 クリアファイルに入っていたのは、コピー機事件で印刷出来なかった【なーさんのレシピ】だったんだ。


(な、なんなのこの人…!ほんとに出来過ぎだって…!)


「わぁ…!このレシピで大丈夫です!先輩、本当にありがとうございます!!」


「それ、作る予定なんだろ?作ったら俺にも食べさせてくれよな?///」


 その言葉に僕たちの顔が少し紅潮した。


「も、もちろんです…!た、楽しみにしててください!///」


 照れる僕に照れながらニコッとする先輩。


(どんどん好きになっていくよぉ、もう…///)


 そして、去り際に先輩が「また明日な」なんて言うもんだから、僕は照れながら「はい、また明日…///」と返し、僕たちは別れたんだ。


(また…明日…///)


 今まで会う接点がなかった僕たちが「また明日な」と先輩が言ってくれたことに僕のテンションは、ただただ爆上がりする一方だったんだ。

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