A-23
少しして頬を伝っていた涙も止まり、落ち着く僕に先輩が「紡、ほんとにありがとう」とそう言ってまた、僕の頭を優しく撫でてくれたんだ。
気持ちが落ち着いた時に頭を撫でてもらうと、やっぱり恥ずかしいし、先輩はどういう気持ちで僕の頭を撫でてくれているのかも分からなくて…。
ただ、先輩の大きな手が僕の頭を優しく覆って素直にとても温かかったの事実だ。
「そうだ、紡…ちょっと付き合ってくれるか?」
…あれ?真剣に話しすぎてたら家とは全く違う方向へ車が向かっている事に僕は、今になって気付いた。
「ぼ、僕は大丈夫ですけど…」
「…お前と行きたいところがあるんだ…///」
凌空先輩は、僕にひと言、言い残して車をまた走り出させたんだ。
-その後、目的地へ着くまでの間、お互いのことを伝え合うように2人で話を続けていた。
凌空先輩は知っての通り経営学部の3年生だ。
陽翔先輩が言っていたように卵焼きが大好きで特に手料理が好きらしい。
歌でみんなを笑顔にしたいこと。
自宅は僕の家から車で15分ぐらい。
知っていたようで知らないこともこうやってお互い素直に話せたから知れたこともあって僕は、すこぶる嬉しくなった。
(もっと先輩を知りたいな…でもなぁ…)
(見ての通りファンも多いし、女子にも相当モテるだろうな…何だか勝ち目なんか僕にないなぁ…だって…僕…男だし…)
なんて色んなことを考えていたら凌空先輩が僕に「紡は好きな人いるのか?」と投げかけてきたんだ。
(せ、先輩?!と、唐突すぎん…!?///)
(…でも、ちゃんと答えないと…///)
「い、います…すごく大好きな人が…」と照れ隠しをしながら言う僕は、顔が真っ赤になりそうで、全く隠しきれていなかったと思う。
「そうか、その人は羨ましいな…こんなに可愛いんだもん、しかも料理もうまくてさ」
「ぼ、僕が可愛い…ですか…!?」
「うん、可愛いよ?」
微笑みながら返してくる先輩。好きな人に可愛いよ?なんて言われたら、何って返せばいいんだよっ…!///
素直に喜びたいけれど、そこに恋愛としての好きとかそういう感情がこもっているのかも分からない…。だから尚更、慎重になるんだ。
でも、僕も先輩に同じことを聞いてみたくなったんだ。
「…じ、じゃあ!先輩は、好きな人いるんですか?!///」
僕は、なんとか口を回したけど緊張と恥ずかしさからすごい早口になっていた気がした。
僕の質問に先輩は「んっ…最近出来た…」と少し照れながら僕に教えてくれたんだ。
(…そりゃ…そうだよね…)
「そうなんですか」と少し寂しげに返す僕。
逆に凌空先輩は「そいつのこと、もっと知りたいなって思うんだよな…///」なんて一瞬、目をギュッと瞑りながらニコッと微笑んだんだ。
(…な、なんで僕が…ドキドキしてるんだよ…ぼ、僕の事じゃないだろうよ……!///)
聞いたのは自分のくせに、少し気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。
「紡、着いたよ?降りて?」
気付けば目的地まで着いていたらしい。
ここ、どこだろう…?全く見当がつかない。
先輩の掛け声と共に助手席から降りた僕は、先輩の近くまで駆け寄っていったんだ。
「先輩、ここ…どこですか?」
辺りを見渡してみても街頭しかない閑散とした場所。少しだけ不気味だった。
「着いておいで」と凌空先輩に言われるがままに僕は後ろから着いて行ったんだ。
茂みのある木々を僕たちは、くぐり抜けて歩みを進めていく。自然が好きな僕は木々を抜けていくことに抵抗感は全くなかった。
木々を抜けきった時、僕の目に飛び込んできたものは「うわぁ…すごい…///」
そう、それは広い崖の先から見える街並みの景色だったんだ。
光り輝く街灯や住宅の照明、オフィス街のライトなどが織り混じり、綺麗なコントラストになって僕の目に映った。
辺りに街頭はほとんどないからか、夜空は満天の星がくっきりと綺麗に見える。
「いつ来ても綺麗だな…」
「都内にもこんなところがあるんですね…」
僕たちは吸い込まれそうな絶景に見惚れていた。僕と先輩の距離も近い…ほんのり凌空先輩の匂いもしたけれど、それが気にならない程の絶景だった。
景色に見惚れていたその時、凌空先輩の手が軽く僕に触れた…。
嫌でもないくせに、ドキッとした僕は咄嗟に手を引っ込めてしまった。
「あっ…ごめんな!///」と慌てる先輩に
「い、いえ…!///」と僕も照れながら返したんだけど先輩は、そんなことよりも「今は…父さん出てきたか…?」と…。
父さんの話をしてから、すごく気にしてくれる先輩に僕は「今は先輩しか…見えてませんよ?」とニコッと返してあげた。その返答に先輩も「よかった…」とホッとした様子を浮かばせる。
絶景と一緒に凌空先輩との時間が流れていく…すごく幸せだったし、僕たちを包み込む風も心地よかった。
「なぁ…紡?」
「…はい?」
「…恥ずかしいけど…今度は、俺の話も聞いてくれないか…?」
そう言う先輩の表現は僕の見たことのない表情だった。多分…みんなも見たことがないんじゃないのかな?照れてるように見えて…どことなく…寂しそうな顔をしていたんだ…。
僕は先輩のお願いに「もちろんです」と笑顔で返したんだ。
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