A-21

 僕は、先輩に何を話せばいいんだろう…会えば言葉が繋がるのかな、洸に話したように話せるのかな…。


 気持ちがまとまらない僕の前に、深結と灯里が凌空先輩を連れてきた。


「…きたぞ…紡…頑張れ…」


 小声で、僕の背中を押してくれる洸。

 僕は、その言葉と共に椅子から立ち上がり先輩の元へ向かう。不思議と、凌空先輩の元へと歩みが止まらなかった。

 そして、僕の歩みに合わせて先輩も僕に向かってくる。


 向き合った僕たちは、少し張り詰めた沈黙が続いた。胸の鼓動が痛い程に響く…。


「ご、ごめ…「一緒に帰ろう」


(…え…)


 そのまま、凌空先輩が僕の右手を握りしめてきたのだ。先輩に手を握られているのに、なぜだかドキドキとした気持ちは感じず、僕はただただ先輩に謝れなかったことが気がかりだったんだ。


「で、でも…」


「紡とゆっくり2人で話がしたい。ダメかい…?」


 優しく微笑む先輩。さっきのコピー機で起きた事件よりも柔らかくて、暖かい微笑みで僕の心を包み込んでくれた…。


 先輩の後ろでは、深結と灯里がなにやら嬉しそうに小さく戯れ合っていた。そして、僕の後ろでは洸が「行ってこい!」と優しく囁く。

 もう、断ることなんてどこにも無いんだ。


「い、いえ…!お願いします…!僕も、先輩と話がしたいです…!」


「紡、ありがとう…じゃあ行こうか」

「洸、深結それに灯里、色々ありがとな」


 その言葉に3人は、ニコッと無言で先輩に会釈をして喜んでくれたんだ。


 先輩に握られた右手は、ぎゅっと握られたまま離されず、僕は先輩に誘導されるかのように駐車場まで向かっていった。


 そう、これが先輩との初めての繋がりになったんだ。とにかく、先輩の手は温かい…。


 先輩も車で通学しているのは知っていた。

 手を繋いだまま駐車場に着き、僕の目の前にはピカピカと綺麗にされている先輩のSUV車がお目見えしていた。


(ぼ、僕、先輩の車に…乗れちゃうの…?///)


 先輩の車に乗れる嬉しさとこの後の展開に不安や緊張が襲い、僕の心臓はどうにかなっちゃいそうな程、鼓動が乱れていた。


「紡、助手席に乗って?」


「…えっ!?先輩のと、隣ですか?」


「俺の隣、いやか?」


「い、いえ!なんか恐れ多くて…」


「俺は、隣にいてほしい」


「…え…?///」


「その方が話しやすいだろ?」


(…僕のばかーっ!!意識し過ぎだー!!)


「じ、じゃあ…///」と僕は、そっと助手席のドアを開けて「お邪魔します…///」と車に乗り込んだんだ。


 車内は、シトラス系の香りでとても心地のいい匂いだ。そのおかげなのか、乱れていた僕の心臓は、少し落ち着きを取り戻していた。


 先輩も運転席に乗り込んで、僕たちはシートベルトをしっかりと着用し先輩は、車を発進させたんだ。


-車内


 僕は、チラッと先輩の顔を見てみた。

 真っ直ぐ道路に向けらえる先輩の目線と僕から見える横顔。

 凛々しくて恋しい…僕の大好きな顔。


 僕の視線に気付いた先輩が「俺の顔になんか付いてるか?」なんてニコッとしながら言うもんで、僕は「…い、いえっ!///」と目を逸らし恥ずかしくなってしまった。


 その後、少しだけ沈黙があり、会話を切り出してくれたのは凌空先輩だった。


「紡、さっきは悪かったな…」


「…え…?」


「俺は、お前を泣かせてしまった…」


 先輩の片手は、ギュッとハンドルを握りしめられていて、余った片手で軽く作ったこぶしを口元に当てながら申し訳なさそうに話す先輩…


 そんな先輩に、僕は

「ち、違うんです、先輩は何も悪くないんです…」


 なんでだろう、こんなに緊張しているのに…

先輩になにを話したらいいのか、分からないはずなのに…僕の口から咄嗟に出た一言は


「先輩…僕の…聞いてくれますか…?」


 この言葉の後、自分でも不思議なぐらいに先輩へ向けて、言葉がどんどんと溢れ出て、紡がれていくなんて、思ってもみなかったんだ。

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