A-19

―お昼過ぎ


 いつも通り、洸と深結は部活に向かっていった。僕は料理部のSNSで体育祭で何を振る舞うのかを先輩たちとやりとりしていた。


 部員で何を作りたいかSNSで寄せ合うことになり、時間もあるし図書室に行ってレシピ見てみようかな?いいアイデアが浮かぶかもしれないし!と、僕は初めて新館にある図書室に足を向けたんだ。


 図書室に着いた僕の目に飛び込んできたのは綺麗に並べられた無数の本。


(…うわぁ…す、凄い…!)

(下手したら、本屋さんより本があるんじゃないの…?)


 そんなことを思いながら、料理関連のブースを探し出し足を運んだ。料理ブースにもずらっと並ぶレシピ本や栄養学の書物。


(…そういえば部長、OBの話してたよな…)


 いろんな本がある中で、OBが書いたレシピ本と他のレシピ本を手に取り僕は、机で読んでみることにした。

 パラパラとOBレシピ本をめくり、へぇ…!これは面白いな…!…あっ!これも美味しそう!とレシピをめくる度に僕の心は踊り始めていた。


 そのレシピ本の中で一際、美味しそうなメニューを僕は見つけた。これいいな…!うん!部活のみんなにも提案してみよう!


 レシピ作成者は【なー】という人だったらしい。名前と言うより、あだ名なのかな?


 僕は、なーさんのメニューに向かって「ちょっと、お借りしますっ!」と伝え、図書室のコピー機で印刷させてもらうことにしたんだ。


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 -その頃、軽音部-


「…あれっ…どこいった?」


「凌空、どうした?」


「…ヤバい、新曲の原本が見当たらない…」


「…おいおい珍しいな、お前が忘れ物なんて…って!忘れたものが良くねぇじゃん!」


「…ああ、誰かに見られる前に取ってくる。」


「どこに?」


「…恐らく、図書館のコピー機だ。みんなのサポート任せたぞ。」


「はいよ〜……」

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(あ、あった!)

(…ん?…あれ??)


 僕はコピー機を見つけ、なーさんのレシピを印刷しようとしたが、なにやらコピー機がエラーを起こしている。


 周りに誰かいないかな?と辺りを見渡すも時間的に誰もいない…。


(うう…弱ったなぁ…)


 実は僕、かなりの機械音痴なんだ。慣れない機械に触れたら、何でもエラーになってしまう程…。でも、コピーはしたいし…。


 とりあえず頑張ってエラー表示の指示通りにいじってみると単なる紙不足だったらしい。


(仕方ない、入れてみるか…)


 悪戦苦闘しながら無我夢中で一番下の給紙トレイを開けて、しゃがんでサイズの合う用紙を折れないように入れていく。


(…うん!きっとこれで大丈夫…!!)


 必死に用紙を入れ終わって安堵した瞬間、僕の真後ろで優しい声が僕の耳に響き渡った。


「紡、大丈夫そうか…?」


「…えっ…」


 しゃがんだまま振り向くと、そこにはコピー機に手をかけて僕に優しく微笑みかけてくれる凌空先輩の姿があったんだ…。


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(紡、大丈夫か?父さんがついているぞ?)

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「…紡…!?」


 優しい微笑みを見つめていた僕の目からは、涙が溢れ、頬を伝っていた。

 目の前にいる人は、僕が愛してしまった凌空先輩なのに凌空先輩を見ると、どうしてか脳裏に父さんが出てきてしまうんだ…。


 昔の温かな思い出と現実の恋心が織り混ざって僕は涙が止まらなくなった…。


(…な、なんでなんだろう…)


 僕は、ヒクヒクと涙が止まらない…。

 そんな僕を見て、凌空先輩も咄嗟にしゃがんでくれて、僕の肩に手を添えて落ち着かせようとしてくれた。


「大丈夫だから、落ち着いて?な、紡?」


 でも、凌空先輩の優しさすら今の僕には受け止めきれない。とにかく、どうしていいのか分からない…辛い、寂しい…そして恋しい…。


 僕は涙を拭い「…先輩、ごめんなさい!」と立ち上がり、凌空先輩を残して足早に図書室を飛び出してしまった…。


「…つむ…!」


 僕が飛び出した後に、そっとOBのレシピ本に手を取り、凌空先輩が自分の軽率な行動を悔やんでいたことを僕は、知りもせずに…。

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