A-18

 食事を一緒に摂りながら僕たちは、自己紹介をした。


 灯里は深結と同じ軽音部のオーディションを勝ち抜いたドラマーだ。

 黒髪でロングヘアー、華奢な身体から繰り出されるドラム捌きは、深結も部員たちからも一目置かれる存在なんだとか。

 そして、凌空先輩と同じ経営学部に通っているらしく、僕はちょっとだけ羨ましくなった。


 その後もみんなで他愛もない話をしていると今度は、2人の男性が僕たちに近づいてきたんだ…。


「お、いたわいたわ!やっぱ、いつものところだったな」

「ああ、ここで間違いなかった」


(…り、凌空先輩!?)


 近づいてきたのは、なんと凌空先輩と先輩と同い年ぐらいでバリバリ金髪の男性。

 凌空先輩と僕の距離が今までにない程に近くなり、僕の鼓動も一気に高まり、顔まで赤くなってしまう。


 だが、それと同時に灯里に事情を話していない僕は、なるべく平然を装うとしたけれど、結局のところ、顔を紅潮しながら慌てふためいてしまう。


 どうしよう…僕、凌空先輩のことが好きって灯里に伝えられてないし、言っていい事なのかも分からない…。


 そんな、僕の気持ちを灯里は汲み取るかのように、僕の目を見てニコッと「大丈夫、なんとなく紡の気持ち、察したよ」と小声で話してくれたんだ。


(え…ど、どういう事だろう…)


「先輩、こんなところにどうしたんですか?」


 灯里は、2人に顔を向け、問いかけた。


「ああ、2人に新しい譜面を持ってきたんだ。空いた時間でいいから、読んで感想を教えてほしい。」


 深結と灯里に新曲の譜面と歌詞の書いた用紙を渡す凌空先輩。

 それに金髪先輩も続けて「そこの2人には出来れば見せないでくれ。体育祭でお披露目予定だからさ!」と2人に釘を打った。


「わっかりましたぁ!」


 天真爛漫に2人へ返答した深結が、僕たちに2人を紹介してくれたんだ。


 軽音部部長でプリンス、ボーカルの凌空先輩

 軽音部副部長、ギタリストの陽翔はると先輩


 深結の紹介に凌空先輩は「プリンスは、恥ずかしいからやめろ…」と真顔で、でも少し照れながら返している姿を見せてくれた。今の僕にとっては、表情や仕草、全てが愛おしく感じる。


「2人の事は深結からよく聞いてるよ。紡と洸だよな。深結と灯里のこと、友達としてこれからも支えてやってくれ。」


「音楽は気持ちひとつで音が乱れたり、噛み合わなくなるんだ。これからも2人の心(音)の支えになってやってくれよな♪」


 人気のある軽音部も裏では並大抵ではない努力や苦労が色々あるようだ。僕と洸は「分かりました、任せてください」と2人に返答したんだ。


 その後、徐に陽翔先輩が僕の近くにやってきて「あれ?今日は卵焼き入っていないの?」と僕の弁当箱を見つめながら僕に問う。


 な、何で卵焼きのことを陽翔先輩も知っているの?陽翔先輩の質問に疑問が生じる僕。僕の不安そうな顔を陽翔先輩は直ぐに汲み取ってくれた。


「いやいや、この前3人のやりとりを俺も凌空といたから聞いてたし…美味しい物には目がなくてね♪」


 そうか、凌空先輩と陽翔先輩は部活以外でも仲がいいってことか、それなら卵焼きのことを知っていても当然かと、僕は自己解釈した。


「ごめんなさい…もう食べちゃいました。」


「そりゃ残念!今度、俺にも作ってくれよ~!凌空のやつも卵焼き大好きで、きっと食べたいだろうから、なぁ!凌空。」


「…はぁ、お前な…図々しいからそのへんでやめておけ」


 陽翔先輩は「はいはい♪」と言って凌空先輩の横に戻ろうとした、その時、勢いよく椅子から立ち上がり、僕の一言にみんな視線が集まった。


「ぼ、ぼぼ、僕っ!!!」

「明日!み、みんなの卵焼き、作ってきますっ!!」


 僕の一言に無理しなくてもいいんだぞ?と洸や凌空先輩は不安そうに見つめてくれたが、


「よ、よければ、みんなに僕の卵焼きを…食べてほしいです…」


(きっと父さんならこうしたはずなんだ…)


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(紡?美味しい料理は人を幸せにするんだ…)


(その分…食べてほしいと思う人の事を考えて作る自分にも幸せが返ってくるんだよ?)

 ====================


 昔、父さんが料理を作る時、僕にいつも話してくれた言葉。

 美味しく作ってみんなに食べてもらって、みんなに笑顔になってほしい…その思いで僕は、みんなに言葉を発していたんだ。


「え…いいのか?」

「む、無理しなくてもいいんだぞ?」


 再度、申し訳なさそうに話す先輩たちに「任せてください!」と笑顔で僕が返すと、その言葉にみんなも笑顔で「やった♪」と喜んでくれたんだ。

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