A-16

「紡?少し落ち着いたか?」


 洸がいつも通り優しく声をかけてくれて僕は「うん、もう大丈夫…2人とも、本当にありがとう!」と少しの涙が混じる微笑みを2人に振りまいたんだ。


 僕は、凌空先輩がくれた写真を封筒に戻して折れないよう、大事に鞄へ仕舞い込む。

 その間も2人は楽しそうに会話を続けていた。


「紡の幸せはさ、私たちの幸せだねぇっ!」


「そうだな!でも、俺たちも負けてられんぞ?」


「そうねっ!洸より先に彼氏は作ってみせるもんっ!☆」


「はぁ?深結、相手いんのかよぉ~?」


「もう!!これから見つけるんだもん!!」


 なんて笑いながら話す2人に僕も、自然と笑みが溢れて笑ってしまった。


 凄いよなぁ…再開と初めましての出会いでまだ2日しか経っていないのに、ずっと前から僕らはどこかで出会っていて、付き合いの長い親友のような感じがしたんだ。


「そうだ、紡〜っ!恋は応援はするけど、これからも変わらずちょっかいは入れさせろよ~?」


「私も紡の恋を見てキュンキュンさせても〜らおっと♪」


 いつも通り冗談まじりの2人に僕は、微笑みながら2人に抱きついた。2人も、あははっ!と僕を笑顔で包容し返してくれて、3人で温もりを分け合うように、僕たちは抱き合っていたんだ。


 ◇ ◇


 すっかり時間も経ってしまい、外は真っ暗で帰りは深結が車で僕たちを家の近くまで送ってくれた。


 また明日ね!と僕たちを降ろし去っていく深結。手を振って深結を送ったあと、僕と洸も「また明日!」と別れを告げ合ってお互い自宅への帰路に就いたんだ。


 家に着いてからは、いつも通り家のことを済ませ、ソファーの上で一息つく時間までたどり着いた。


 落ち着いた僕は、鞄から凌空先輩がくれた写真を取り出しもう一度、風景を眺めてみた。


(う~ん…やっぱり、どこか分からないな…)


 でも、何度見てもすごく綺麗な場所で、写真だけでも心が洗われそうな程だ。そしてきっと凌空先輩も好きな場所なんだろうな…。


(いつか凌空先輩と一緒に行ってみたい…)


 そう思いながら僕は、ソファーから立ち上がり自宅に余っていた額縁に貰った写真を入れることにしたんだけれど…


(…ん…どうしよう…)

(これ…どっちを表で入れたらいいの…!?)


 表は綺麗な風景画

 裏は綺麗な字で綴られた凌空先輩からのメッセージ


 ど、どっちも選び難いじゃんかっ!

 あっ…そうかっ!!僕は、徐に携帯を手にして、カシャっ!と1枚の写真を携帯に収めた。


 僕は、大事に写真を額に入れて

「…先輩、また卵焼き作りますね?」

 そう写真に語りかけながらよく目につく、キッチンにそっと飾ることにしたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る