A-15
(…ゴクっ…)
僕は息を飲み、震える手を抑えながら封を開けそっと中身を取り出してみた。
その中には1枚の写真が入っていたんだ。
(うわぁあ…凄く綺麗…)
そこに写っていたのは、川と森の風景画。
じっとしていても、耳にさざなみが聞こえてくるような写真だった。
「どこかの…風景か?」
「すごい綺麗…紡、ここどこか知ってるの?」
2人の言葉に僕は「ううん」と首を横に振る事しか出来なかった。
(ここ、どこなんだろう…)
(先輩、僕…自然が好きなこと知ってる…?)
(いやいや、それは考えすぎだ…///)
僕は色んな気持ちが織り混じりながらも、咄嗟に写真を裏返した。裏には何も書かれていないだろうと確認したかっただけのはずなのに、裏に描かれていたのは…
“卵焼き最高だった、ありがとう”
“今度は俺の為にも作って欲しいな”
“凌空”
(…えっ……?!)
(…あああぁぁぁぁぁぁぁぁ…///)
僕の心の中で何かが爆発したような音が鳴った。僕は恥ずかしさのあまり硬直、放心状態だ。俗に言う、チーン!である。
「お…おいおい!…紡!顔真っ赤!!!!」
「ちょ、紡!?紡!!?」
これは、僕自身…どうしていいのか分からない。さっきまで考えていた、先輩の寂しい顔のことはどこにいったのやら。
「…っ!…っ…!///」と2人の声がけに僕は声が出ない。なんとか首を振るしか出来ずにいた。
こんなに愛しくて苦しくなったことないよ…これが正真正銘の恋ってやつなの…?
まだ先輩と話したことも、先輩がどんな人なのかも全く知らない…ただの一目惚れ…。
僕は、1人のプリンスに恋をしたんだ…。
(…あれ…でも…ちょっと待って……??)
(…よ、よく考えてみたら…)
不意に自分の気持ちに向き合う僕…。
先輩に対して好きという感情が増していくにつれて、今までどこかに置いてきてた、いろんな感情が僕をどんどん襲ってきたんだ…。
(…僕が大好きな人は…)
(…男の人…)
言葉が出ない僕は、そのまま俯いてしまった。僕が好きになった人はプリンスであり、男の人…。そして僕も男の子だ…。
今まで誰にも恋をしたことが無かった僕が恋をしたのは、凌空先輩…あなただった…。
「これは、相当嬉しいよな!」
「そりゃ、こんな風に好きな人から貰い物したら誰だって嬉しいでしょうよ!」
俯く僕の横で、揶揄う訳でもなく、いつも通り話をする洸と深結。
でも、話の内容が僕の耳には届かない…いや、僕自身の気持ちが整理出来ていないだけなんだ…。
(…僕、男のことを本気で…好きになっちゃったんだ…)
(…ちゃんと洸と深結に先輩が好きだって話せてないのに…)
(どうしよう…本音を話して…2人に引かれちゃわないかな…?)
いろんな感情が襲ってくる中で、自分のことがとにかく憎くなった。先輩が女の子だったら…僕が女の子だったら、ごく普通の恋を描けたかもしれないのに…。
まさか、お互い男性で…でも、僕はこんなに…先輩のことが大好きなのに…
こんなに…気持ちは、先輩を求めているのになんだろう…すごく感情が不安定だ…。
そして、この事実を知った洸と深結が、僕から離れていってしまったり、軽蔑や偏見の目で見られてしまうのではないかと…そこまで考えてしまう…。
一体…普通って…なんなんだ…。
今にも泣き出しそうな僕の身体は少し震えていた…。
そんな僕の気持ちに洸が勘づいたかのようにそっと僕の肩に手を添えて、優しい言葉降り注いでくれた。
「…なぁ、紡?聞こえてるか分からないけど、先輩のこと好きになって…どうしようなんて思うなよ?」
洸の言葉に俯いていた僕は、洸の顔に目を向けた。その顔はいつものおちゃらけた洸の表情ではなく、いつにも増してマジな顔だった。
「こ、洸…ど、どういう…「俺はお前の恋を応援したい」
(えっ…洸…???)
その言葉と同時に深結も僕の肩に手を添えて
「私も…紡には幸せになってもらいたい!私も紡を応援したんだよっ!」…と…。
(み、深結まで…)
2人の言葉に、涙がどんどん溢れ出てきて、僕の頬を何度も何度も伝っていく。
「それと、男に恋をしちゃった、だなんて絶対思うなよ?…先輩ももし、お前のことが好きだったら失礼だろ?」
洸の優しい励ましに僕は、「…っうん…」と涙を流しながら答えるしか出来なかった。
「…辛くなったら俺や深結の元に来ればいい。いつでも紡を支えてやるから…!」
洸の温かく力強い発言に、誰もいない食堂でヒクヒクと泣く僕とは裏腹に、洸は大丈夫だ!と僕の頭をポンポンと叩いてくれたんだ。
(…僕…先輩のこと…愛してもいいんだ…)
僕の心が洸のおかげで安堵した瞬間だった。
それと同時に、男を愛してしまったと考えてしまった自分こそ最低じゃないか…と感じたのは確かだった。
「って、おい~!なんで深結が泣いてんの!!」
「だって…感動するじゃん…」
深結の涙ながらの言葉に、話していた洸も少し照れくさそうに言葉を紡いでくれた。
「だから…な、紡…?…頑張ろうな…?俺らはいつでもお前の味方だ」
「紡…大丈夫!何があろうと私は紡から離れたりしないから…!絶対に…幸せになろうね?」
優しく微笑む2人に僕は、涙を流しながらニコっと「…ほんとに…2人とも…ありがとう!」と返したんだ。
本当なら軽蔑されてもおかしくないのに、そんな事を微塵とも感じさせずに接してくれた2人…。本当に…素敵な2人に出会えたな…そして、1人で抱えて塞ぎ込むのはもうやめよう…。
そう心から思えた瞬間だったんだ。
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