A-14
「おおぉぉ…!紡めしが凌空先輩の口に…♪」
深結の発言に唖然とする僕の顔を見ながらニヤッと話す洸。あまりにも予想外な展開と、とにかく恥ずかしくて、言葉にならない僕。
「でもどうして、凌空先輩にあげたんだ?」
僕が聞きたいことを次々と聞いてくれる洸。嬉しかった反面、深結からどんな返答が来るのか緊張と恥ずかしさが織り混じって気持ちが落ち着かない。
「それがね…?部の打ち合わせが終わった後に、卵焼きの容器を取り出して一口食べようとしたら、凌空先輩が私のところに来て話しかけてきて…」
ことの真相を深結が話し始めたんだ。
◇ ◇
「深結、昼間3人で楽しそうだったな。ちょうど食堂を通りかかった時に、お前たちがはしゃいでる所を見たんだ。」
「あわわ!!!見られてたんですね…場も弁えずはしゃいじゃいました…」
「ふふ、いいじゃないか。楽しい事とかはしゃいでる姿を見るの、俺は嫌いじゃないよ?」
「ははっ…ありがとうございますっ…!」
「…あれっ?それ…昼に話してた卵焼きか?」
「…そうです!幼馴染が作ってくれた卵焼きで!オーディション受かったら、また食べようと思っていて!」
「お昼も食べて、勇気と元気を貰えたから、いい結果に結びついたんだと思います!本当に温かい卵焼きなんですよ!」
「うんうん、そうか…。なぁ、深結?」
「っ…はい!?」
「…その卵焼き、俺に1個くれないか…?」
「っうへ…?!!」
「俺、実は卵焼きが大好きなんだよ。それとあいつが作ったんだろ…?」
「あ、あいつ?あぁ、紡の事ですね?!」
「そうか…紡って名前なんだな。紡が作ったのなら、尚更食べてみたい…1個…もらえないかな…?」
「……どうぞ!!!」
「やった…深結、ありがとう」
「…図々しくて…ごめんな…?」
◇ ◇
「…ってことになりまして…」
もう、聞いてるだけで顔から湯気が沸き立ちそうな程ポーっと顔が真っ赤な僕。
(ああああ…もう…ぶっ倒れそう…)
洸は深結の話を聞きながら、僕の肩をバンバン叩いてきてるのに何にも痛みを感じない。
でも、なにより気になるのは先輩の感想。
口にあったのかな…?
まずくなかった…?
お腹壊してない…?
いろんなことが僕の頭をよぎってくる。
そんな僕に深結が「凌空先輩が、紡に渡してくれって…」と封筒に入った何かを僕に渡してくる。
もう、何がどうなっていて、気持ちもどうしていいのかわからない僕は、とりあえずその封筒を受け取った。
「ぬおおっ!?おいおい、ラブレターか?!」
なんて洸が僕を茶化してくる。
バカ言うなよ~っ!って本当は大きい声で言い返したかったけど、今の僕にそんな気力も残っていなかった。
「もぉ…洸…やめてぇ…」とただただテーブルにうな垂れるしか出来なかった。
でも、深結の一言でまた少し盤面が変わる。
「でもね…?卵焼き食べた瞬間、先輩ってこんな顔するんだ…ってちょっと驚いたんだよね…なんか寂しそうな顔だった。」
深結は「私の気にしすぎかな?」と続けたが僕はその言葉を聞き逃さなかった。
(先輩の寂しそうな顔…なんだか思い浮かばないな…)
僕、いや、僕たちの知らない先輩の素顔。
ステージで振り撒いている笑顔とはまた、別の顔があるのかもしれない。それを僕の卵焼きを食べて現れたって事なんだよね…?どうしてなんだろう…。
それはそうと、凌空先輩から渡された封筒。この封筒の中身も実際、凄く気になるところ。
この中に先輩の気持ちが入っているのかもしれない。僕は2人の前で、覚悟を決め封筒を開けてみることにしたんだ。
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