A-13
食事が進み、会話は深結のオーディションの話になった。
「そうだ、深結。今日のオーディションは何時からなの?」
「15時からみたい!…あぁあ、なんだか緊張してきたなぁ…」
いつもの深結とは違う様子で、不安や緊張感が僕たちにもヒシヒシと伝わってくる。そんな緊張感を上手く汲み取り、洸が上手に話題を少し切り替えた。
「深結っていつからベース弾いてるんだ??」
「中学の時からかな?部活には入ってなかったけど、趣味で友達とよく弾いてたんだよ~」
深結と離れていた数年の歳月の出来事は、僕も知っているようで知らないことだらけだった。止まっていた僕たちの時間が、新たに動き出しているような感じがしたんだ。
「深結、結果は今日わかるの?」
「うん!」
「じゃあ、結果が出るまで僕も学校で待ってるよ!LINEで報告より、ちゃんと深結の口から結果聞きたいし!」
「おお!俺も部活のオリエンテーションが終わったら紡と合流して待ってるよ!」
僕たちは声を合わせて「深結、がんばれ!」とこの言葉が少しでも深結の背中を押せればと思って、笑顔でそう伝えたんだ。
僕たちの応援に「うん、頑張るね…///…2人とも、ありがとぉ!」と深結も照れながら、返してくれたんだ。きっと大丈夫、深結なら出来るよっ!
◇ ◇
-15時
授業が終わった僕たちは、深結のオーディションが終わるまで各々の時間を過ごすことになった。
洸はサッカー部へ、深結は愛用のベースを持って軽音部のスタジオに向かった。僕はこれと言って用事もなく、深結をスタジオのギリギリまで送り届けてあげたんだ。
最後に一言「がんばれ!」と一押ししてあげて、深結は緊張感を漂わせながらも、明るく楽しそうにスタジオへ駆け出して行った。
待っている僕まで、自分のことのように緊張していて、深結の口からいい結果が聞けることを願いながら、その時が来るのをじっと待っていたんだ。
-17時
3人のLINEに僕は⦅食堂で待っているね⦆とあらかじめ送っておいた。
先に洸が部活を終えて、ソワソワしている僕の元へ駆けつけてきてくれた。
「紡、お疲れ!…深結はまだか…」
洸も僕と一緒で深結の結果に、気持ちがソワソワしているようだった。それにしても深結がなかなか食堂に姿を表さない。
(オーディションの申込人数が多いから時間がかかっているのか…)
(受かったからそのまま説明を受けているだけなのか…)
(それとも失敗して何処かで泣いているのか…)
いろんな思いが僕の脳裏をよぎっていたその時…「…2人とも!…お待たせ…っ!」
半泣きの深結が僕たちの元に戻ってきたんだ。その姿に思わず息を呑む僕。洸から言葉を切り出してくれた。
「深結…どうだった…?」
「…っ…私…!!!明日から軽音部の一員だよ…!!」
と深結は堪えていた涙を零しながら、僕たちに抱きついてきたんだ。
「えっ?!すごい!!…やったね!深結!」
「すげぇなっ!あの軽音部に…!深結っ!よく頑張ったな…!」
「2人が何度も背中を押してくれたからだよ…!!…ほ、本当にありがとう…!!」
と緊張感からの解放と嬉しさのあまりに深結の涙は止まらない。
僕と洸は何度も何度も「おめでとう!よく頑張ったね!」と深結を称えてあげたんだ。
本当に、本当に良かった。本当に自分のことのように嬉しい出来事になったんだ。深結…本当によく頑張ったね?
-深結からの嬉しい発表から数分後
深結の気持ちも落ち着いたようで、軽音部のオーディションの様子や合否発表後のことを僕たちに教えてくれた。
ベースとドラムに沢山の志願者がいたこと。その中で凌空先輩が「君の音色一番いい」と他の先輩たちも含めて深結を認めてくれたこと。
ドラム志願で受かった子と友達になって、今度2人にも紹介したいということ。
僕たちは嬉しそうに話す深結の言葉を「うん、うん」と何度も相槌を入れながら聞いていたんだ。
話が進んだ頃に深結が、お昼に取っておいた卵焼きの容器を僕に返してくれた。
「受かったご褒美、すごい美味しかった。紡…本当にありがとう…///」
嬉しそうに容器を返してくれて僕も「いえいえっ///」と照れながら返事をしたんだ。
ただその後、深結が意味深な発言を紡いだ。
「でも…卵焼き、1個しか食べれなかったの…」
…ん…?卵焼きは確か…2個あったはず。緊張がほぐれて1個、落としちゃったのかな…?でも容器の中は空っぽ…。
んー??どういうことなんだろう??なんて不思議に考える僕よりも先に洸が切り出す。
「1個、食べれなかったってどういうことだ?」
「実は…」
紡・洸「…実は???」
「実は…ね?…凌空先輩に…1個あげちゃった…」
……?
ええええええええええええっ!!??
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