A面-紡と凌空、2人の過去
A-12
―次の日
昨日より少しだけ早く目が覚めた僕は、作った弁当の用意や学校に行く準備を始めた。
深結と洸に渡す卵焼きもしっかりと分けて、自分の弁当と一緒に包み込んだ。卵焼きと弁当が傷まないように保冷剤も付けて。
2人とも美味しい!って言ってくれるといいなぁ。はぁ、食べてくれる時の2人の顔が楽しみだな…!
そんなことを僕は考えながら、登校の準備を終わらせ、洸との待ち合わせの場所まで向かったんだ。
◇ ◇
今日もとても天気がいい。清々しい春の陽気の中、待ち合わせの場所で洸を待つ。
(さすがにここまでは迷子にならないね…)
僕の心配よりも先に「紡~っ!」と後ろから洸の声が聞こえてくる。その明るい声に僕も振り向きながら「おはよっ♪」と笑顔で返し、そのまま2人で大学へと向かっていった。
―大学へ着き、ちょうど深結も着いた頃なのか、駐車場から僕たちの元に来てくれて「おはよ!」と笑顔で声をかけてくれた。
(こういう日々がずっと続いてほしいな…)
そんなことを思いながら、3人で楽しく教室へと向かっていったんだ。
栄養学部だけあって、食物の栄養や食物の加工方法など、料理好きの僕には授業が楽しくて仕方なかった。
その一方で講義を受けながら、僕の隣で少し眠そうな洸。あ、またヨダレ垂れてるよ?
深結もしっかり講義を受けているようで、携帯をいじったりしていて、若干上の空。携帯でイケメンでも探してるのかな??
僕は、そんな2人をやっぱり嫌とも思わず、逆に何だか微笑ましいな、なんて感じていたんた。もし、ノート見せて!って言わたら見せてあげようかな?
◇ ◇
―お昼
「お腹すいたぁぁぁぁ!!!!」
洸の大きな掛け声と共に食堂へ向かっていく僕たち。洸、ほとんど寝てたくせに…。
食堂は、旧館の生徒も新館の生徒も利用出来る様に学校の中間地点に設置されていて、食事のメニューも和洋中と多種多様に用意されている。みんなも各々で好きなメニューを頼んで食しているようだ。
「今日はなにを食べてみようかな~♪」
洸も深結もなににしようか悩みながら楽しそうにメニューを選んでいる最中「僕、弁当だから席探して取っておくよ。」と2人に声をかけて僕は空いている席を探す事にしたんだ。
(…うん、ここでいいかな?)
その場所は、窓際で太陽が降り注いでいる席。昔から日陰より日当たりがいい場所をよく選んでしまうんだよなぁ。
(陽も入って…暖かい…)
陽に当たり、春の温もりに触れながら僕は、2人の座る席に容器に入った卵焼きも準備した。
2人とも、どんな反応をしてくれるのかな?緊張するなぁ?口に合うかな?…そんな事を思っていると
「え~!紡!これなぁに!?」
食事を持った深結と洸が僕の選んだ席に来てくれて、深結と洸は机の上にある卵焼きにすぐに気づいてくれたんだ。
「もしかして、何か作ってきてくれたの!?」
「おぉおっ!噂の紡めし!!昨日連絡してたから作ってくれたのかぁっ!!」
2人の嬉しそうな表情を見れて、僕もすごく嬉しくなって、ニコッと頬を赤らめながら「うんっ…!」と2人に返した。
「紡?開けてもいい??」
「もちろんっ!開けてみて!!」
2人は、卵焼きの入ったタッパをパカッと開け
「わぁ!!紡の卵焼き、久々に食べる!」
「すっっげぇ!!卵焼きだ!!」
2人とも嬉しそうに箸を取り、自分達が頼んできた食事よりも先に、僕の卵焼きを口に運んでくれたんだ。
「ん~!!これこれ!!!最高っ!!」
「めっちゃ出汁効いてるし、口ん中で溶ける!マジで、めちゃくちゃ美味ぇっ!!」
(よかった…!口に合ったみたいだ…!)
僕の卵焼きを食べて幸せそうな2人。
洸なんか、気付いたら3個ぺろっと食べちゃって「紡っ、おかわり!!」なんて目をキラキラさせて元気に言うもんだから、僕の弁当箱に入っていた卵焼きを1個移してあげた。
深結は1個食べてすぐに容器の蓋を閉め、自分の鞄に保冷剤と一緒に仕舞い込んだ。
「あれ?深結、食べきらないの?」
「この後、オーディションがあるから、終わった後に自分へのご褒美で食べたいなって♪」
そ、そんなに美味しかった…?!
2人の行動や言動に僕は、ただただ恥ずかしさと嬉しさが増していく。
僕は深結にもう1個食べてオーディション頑張って!の意味も込めて、残りの卵焼きを移してあげたんだ。
「おいおいそれじゃあ、紡のおかず、少なくなるじゃんかよぉ!俺のこれ、少し食えっ!」
「紡の気持ちも凄く嬉しいけど、ほら、紡もしっかり食べないとね!」
2人は自分達が頼んできた【豚の生姜焼き】と【鯖の味噌煮】を僕に少しずつ分けてくれたんだ。
「わぁ、2人ともありがとう!また、作ってくるね!」と笑顔で返すと2人も嬉しそうに「やったねーん!」とハイタッチまでして喜んでくれたんだ。
(…父さん、友達が卵焼きを美味しいって言ってくれたよっ…!)
楽しそうに会話をする僕らをこの時、凌空先輩が通りかかって、見ていた事なんて全く気付きもしなかったんだ。
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