A-11

 夜ご飯も食べ終わり僕は、お風呂で今日一日の疲れを癒すことにした。

 身体を洗い終え、1人お湯に浸かる。ザァーっとかさが増したお湯が、外へと流れていきながら、僕の身体を温もりが包み込んでいく…


(はぁ…気持ちいぃ…)


 お湯に浸かり、僕の顔も自然と綻んでいた。完全に油断していたその時、ある思いが僕の脳裏に舞い戻ってきたんだ。


(…凌空…先輩かぁ…かっこよかったな…///)


 今日初めて先輩を見かけて、初めて目があっただけなはずなのに…先輩のことを考えるだけで胸が締め付けられてもどかしい。


 恋をした女の子ってこんな感じ?一目惚れってこんな感じ?ってか…一目惚れ…だよね?///


 先輩の事を考えれば考えるほど、恥ずかしくなる僕がそこにはいて、湯船の中で顔を紅潮させてしまう。この時は、男に恋をした事なんて考えてもいなく、ただただ…


(今度…先輩と話せたらいいな…///)


 そんなことを考えながら、もう少しだお湯に浸かることにしたんだ。


 ◇ ◇


 お風呂から上がり、僕はベッドに寝転がった。寝る前に、携帯を手に取り深結が送ってくれた大学のサイトにアクセスしてみたんだ。


 使い慣れないSNS。それでも僕は、複数ある部活のページから料理部を選び、中に入ってみた。そこには、料理部の案内やお知らせ、いろんな料理の写真などが掲載されていたんだ。


(あ…今日の投稿がある…えっ?!)


 今日のある投稿を見て僕は、とっても恥ずかしくなってしまった。その投稿を上げていたのは、あの優しい笑顔の部長だった。


【今日は可愛い新入生達が部に来てくれました♪3人とも美味しそうに肉まんを食べてくれて嬉しかったな♪】


 その投稿と共に、僕たちが美味しそうに肉まんを食べている写真がアップロードされていたんだ…。


 SNS慣れしていない僕は、その写真を見てなんでか気持ちが落ち着かなかった。思わず深結と洸のグループLINEに連絡をした。

 その後2人からは、僕の焦りとは真逆な答えを返してきたんだ。


《おお!よく撮れてるぅ♪》


《盗撮っぽいけど、上手く撮れてるし、部長の嬉しさが滲み出てるよなぁ!》


《他の部もこんな感じだよ?うちの部はこんなふうに楽しんでるよ~とかプライベートの画像とか!結構みんなフリーダムだよ!》


《青春って感じだよな~!俺はみんなの楽しそうな姿が見れると嬉しいなって思うけどな!》


 そう2人に言われてみると、僕が入部を決めた時、あんなに嬉しそうに話してくれた部長や先輩達を思い浮かべてもう一度、部長の投稿に目を向けてみる。


 盗撮はいいことではないけれど、写真に写る僕たちは笑顔満開で肉まんを頬張っていた。

 その光景を部長も他の部員も喜んでくれたと思うと、なんだか僕まで嬉しい気持ちになったのは確かだ。


 今度、部長にあった時に僕たちも嬉しかったことを伝えて、次は盗撮じゃなくて堂々撮ってくださいって言ってやろうと僕は思いながら、部長の写真を自分の携帯に保存したんだ。


(あ、そういえば他の部も見れるんだよな…)


 僕は見てもいいものなのか…ちょっとの不安と興味本位でプリンスこと、凌空先輩が所属する軽音楽部のページにアクセスしてみた。


(…うわぁ…すごいっ…///)


 軽音部のサイトは、TOP画面から既にカッコよくて、僕の気持ちはどんどん高揚していく。凌空先輩が所属するだけあって…高揚は倍増するのは当たり前だ。


 ページを進んでいくと料理部と同様、今日のライブの写真や活動中の写真が僕の目に映る。投稿にはコメントもたくさん来ているようだ。


(楽しそう…そして、みんなかっこいい…)


 そう思いながら眺めている僕の目に、ある一枚の写真が映り、顔が真っ赤っかになった。


 僕の目に映ったのは、マイクをギュッと握り笑顔で歌う凌空先輩の写真だったのだ。

 凌空先輩の飛び走る汗とスタジオのライトが綺麗に光り輝いている。


 この写真を見て、僕の心臓は大きく高鳴り、顔が真っ赤になった事や好きな人を見た時の高鳴りの他に、違う感情が僕の心を襲ってきたんだ。


(…父さん…っ…何で…?)


 凌空先輩の顔、僕の父さんが笑った時の顔にそっくりだったんだ。

 ただ似てるだけだ、似ている人なんか世の中に何人もいるはずなんだ。


 僕が好きになった人に…大好きだった父さんを重ねてしまっているだけ。


 きっと…僕自身が寂しかっただけなんだ…。


 そんな風に自分の心に誤魔化して聞かせようと必死だった。それでも僕は、先輩の写真を見つめながら


「先輩…僕…あなたのこと…好きになっちゃったみたいです…」


 いろんな気持ちが織り混じりながらも僕は、画像から目を離せず、気持ちを呟いていたんだ。


 初めての一目惚れだった。


 僕はなんとも言えないもどかしさと共に、凌空先輩の画像をそっと…自分の携帯に保存したんだ。

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