A-10
(…ふぅ…)
自宅に着き、僕は持っていた荷物を床へ下ろし、携帯を握ったままソファーに座り込んだ。
優しい友達が出来たり、いい先輩に出会ったりと楽しみのある1日だった分、疲れも溜まっていたのか、ソファーに座った僕は一気に力が抜けた。
(疲れたけど色々楽しかったな…)
なんて考えていると握りしめていた携帯がブルルと振動し、LINEの通知が手に響く。
《家に着いた?明日も頑張ろうね♪》
《今家に着いたぞ~グループサンキュな~!》
連絡先を交換していた僕たち。早速、深結が僕たちのグループを作ってくれて2人とも連絡をくれたようだ。
《2人とも今日はありがとう。疲れたけど楽しかったね♪》
その後も2人とやりとりをしながら僕は、家のことや明日の準備に取り掛かる。
キッチンに立ち、夜ご飯と明日の弁当の用意を進めていったんだ。
どんなに疲れていても、食事の用意だけは怠らなかった。出来合いの惣菜もほとんだ買ったことがない。そして、父さんも僕に惣菜を食べさせなかった。毎日必ず、温かいご飯を僕に作ってくれていたんだ。
僕の料理好きは、父さん譲りなんだ。
そして…料理は僕の生きがいなんだ。
料理をしながらも合間で、3人のLINE続いていて、洸と深結からは《紡めしが食べたい!食べたい!》の連呼の嵐。
2人の食べたいという気持ちが嬉しくなった僕は、おかずだけでもと1品だけ作ってあげることにした。
そう、僕が一番得意な卵焼きを振る舞ってあげようと思ったんだ。
あらかじめ取っておいた特製の出汁と薄口醤油、砂糖を入れて軽く混ぜ合わせる。
我が家の卵焼きは少し甘めの卵焼き。隠し味にマヨネーズを少しだけ入れる。
マヨネーズを入れるとまろやかになる他に油も含んでいるから、卵焼きふっくら仕上がる。
この作り方も父さん譲り。僕の父さんは本当に料理が上手な人だったんだ。
父さんは僕が10歳の時に交通事故で亡くなった。母さんも僕が生まれて、すぐに離れ離れになったらしく顔を知らない。かと言って、僕も深く話を聞いたことはなかったんだ。父さんが男手1人で僕を育ててくれて、それだけで幸せだったから。
そんな僕に小さい頃から包丁を握らせては、いろんな料理を教えてくれた。
父さんと一緒にキッチンに立って、ワイワイ料理をするのが僕にとって、何よりも一番幸せな時間だったんだ。
そんな父さんの形見は
【父さんの料理レシピ本】
手書きで書かれた、いろんなメニューが載っている。もちろん、僕と父さんが考えたメニューも載っていて思い出のレシピ本なんだ。
今も大事に取ってあって、何度も何度も穴が開きそうになるぐらい見返した。このレシピ本こそが、僕の料理スキルに繋がっているんだと思う。
「父さん、今日も上手く卵焼き焼けたよ?」
微笑みながら出来上がった卵焼きに話しかける僕。熱々の卵焼きを2つ作って、8つに分かれるように切り分ける。
僕は2つ、残りの3つずつを深結と洸にあげることにした。
(2人とも…喜んでくれるといいな…)
そんなことを考えながら僕は、明日の弁当と夜ご飯を作り続けたんだ。
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