A-9

 料理部自体には興味があったから、入れればいいなと思ってはいたけれど、まさか…女性部員しかいないとは思ってもいなかった。


 女性しかいない部活に男の僕が1人入るのは、如何なものなのだろうと、僕は入部を躊躇ってしまう…。


「…ぼ…僕…男ですけど…いいんですか?」


 そんな僕の不安に満ちた返答を部長は、笑顔で僕の心を覆うように「君、料理は好き?」と返してきた。


 その質問に少し戸惑いながらも僕は、正直に「大好きです…!」と返したんだ。


「よかった、私の直感が当たったみたい♪料理好きに男も女も関係ないわよ♪」


 僕の返答に部長は嬉しそうに返してくれた。


「君みたいな可愛い子はうちの部員もみんな大歓迎よ!ねぇ、みんな?」


 周りの先輩も僕の顔を見ながらニコっと微笑みながら相槌をいれてくれていたが、そんな事よりも…


(ぼ、僕が…可愛い…!?)


 部長や他の部員に可愛いと言われたことに僕はなんだか、ものすごくむず痒い気持ちになって、右手で髪をクシャッとしてしまった。正直に恥ずかしかったのだろう。少し顔が熱い。


 僕の隣で会話と様子を見ていた深結と洸。僕の顔が紅潮している事も気づいていたのだろうな…。


「紡〜っ!歓迎してもらえそうでよかったじゃんかっ!好きな事が出来る部活はいいと思うぞ?!そして今度、俺にも何か作ってくれよ~♪」


「洸だけずるいよぉ~!でもさ、料理部に入ったら色んな人に紡の料理を手に取ってもらえるんだね♪紡の腕なら大丈夫だよ!」


 2人は、僕のむず痒い気持ちなんかよりも僕の背中を押してくれるような言葉をかけてくれた。


 僕は男だけれど…料理が好きなことに変わりはない…よし…!やってみよう!と思ったんだ。


「どうする?」と優しい部長の問いかけに、僕は「…っ!よろしくお願いします…!」と笑顔で一言返すと、部長は嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら入部届の用紙を僕に渡してくれた。


 その場で入部届に記入し部長にそっと返すと「やった!ありがとう♪これから仲間の一員としてよろしくね♪」と最後まで優しく微笑んでくれた部長と先輩達。


 活動や集まりのことは、料理部のSNSで確認出来るらしく、後で確認することにした。


 その後、僕たちは先輩たちに肉まんのお礼をして厨房を後にしたんだ。


 ―気づけば辺りもすっかり夕日に染まって、1日の終わりの準備を始めていた。


 今朝、僕はあんなに緊張していたはずなのに、今はいい出会いが出来て本当に良かったなと感じながら、帰路に就く。

 もちろん新しく出来た友達と幼馴染と共に。


 深結は車での通学だったから駐車場まで一緒に歩いて「また明日ね」と洸と一緒に見送ってあげた。


 洸とは電車も最寄り駅も一緒。話を聞けば洸の家は僕の家からそう離れていないみたいで、お互い一人暮らしだし、今度遊びに行かせてもらう約束をしたんだ。


 お互いの家への分かれ道で「また明日、一緒に学校に行こう」と、この分かれ道で待ち合わせることにしてお互い笑顔で帰路に就いたんだ。

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