A-6
「…ふぅ!2人とも、お待たせ!!!」
入部の手続きを終えた洸が、笑顔満点で僕たちの元に戻ってきた。
楽しそうな洸を見て僕たちまで笑顔になり
「洸、楽しそうだったね!」と僕が声をかけると洸も「おうよ♪」と元気いっぱいに返してくれてたんだ。
「よしっ!次は深結の軽音部に行ってみるか!」
「お!ちょうどいい時間かも!軽音部の演奏が聴ける時間かも!!」
「僕、ライブとか初めてだー!ちょっと楽しみ♪」
僕と深結は芝生から腰を上げ、3人で軽音部のある新館へと足を向けた。
◇ ◇
この大学は敷地内に新館と旧館があり、僕たちが通うのが旧館で軽音学部は新館にある。
旧館を出て新館へ向かう僕たち。新館だけあって造りも内装もすごく綺麗だ。ガラス張りの外装で陽の光が燦々と降り注ぐ廊下、観葉植物も至る所に設置され、高速エレベーターまでついていて…インテリ感が漂う新館を歩くだけで僕たちの心は踊り、そして圧倒されていた。
軽音部に行く道中も覚えきれない程の教室や多目的室の様な部屋が沢山あって、僕たちは迷子になりそうだった。
「…俺…1人じゃ絶対歩けんや…」
方向音痴の洸には、迷路にしか感じられない様子で、子どものようにオドオドしながら、僕たちと一緒に歩みを進めていったんだ。
洸?…なんで僕の服…掴んでるの?
そのまま歩みを進めるとチューニング中のギターやベース、ドラムの音が少しずつ僕たちの耳に流れ込んできて、ここだよと言わんばかりにスタジオへ誘われていく。
「…あ!あそこの部屋だね!」
紡・洸「…!!??」
イケメンボーカルや他の部員が目当てなのか…それとも単純に歌を聴きたくて来ているのか…
すごい人数の女子生徒が軽音部のスタジオに群がっていて、その光景に僕は呆気に取られてしまった。
「す、すごい人だね…」
「そりゃそうよ~!ボーカルがイケメンは軽音部、いやいや!学校のプリンス的存在だし、そのそばにいる先輩たちもカッコよくて痺れるから!!!」
呆気に取られる僕とは真逆に、深結は目をキラキラさせながら僕に返してきたんだ。
(すごいなぁ…この部に深結は入るんだ…)
大勢の女子ファンがいる軽音部に入って…楽器を奏でようとしている深結がカッコよく見えてしまったのは僕だけ?
「とりあえず中に入ってみよう!」
呆気に取られている僕と洸の手を握り、大勢の女子生徒をくぐり抜けて、スタジオの中へと入り込んで行ったんだ。
紡・洸「おおおぉ…すごっ…」
スタジオ内に入り、驚いたのは女子生徒の多さもあったが、スタンド席まであるスタジオでまるで体育館を小さくしたようだった。
1階のステージ前は、人が多すぎて見れる場所がなかった僕たちは、スタンド席に繋がる階段を登り、3人ゆっくりと鑑賞出来る場所に腰を下ろした。
「深結、2階でも大丈夫だった?」
軽音部志願で尚且つイケメンも近くで見たかっただろうと思った深結に僕が声をかけると
「ううん、大丈夫!近くで観れた方が楽しいけど、バンドがどんな音を奏でて周りを引き込んでいくのか、上の方がゆっくり聴けるしね!」
軽音部に入る深結の熱意を感じた気がして、前段でイケメンの事を考えた僕は、心で深結に謝っていた。それだけ彼女の目が本気だったんだ。
「…ここならよく見えると思うけど…あ!来た!…あの人が噂のボーカルだよ!!!!」
ステージ上でチューニングをする部員の元に1人の先輩が現れたんだ。その先輩が現れた瞬間、1階にいた女子生徒達の黄色い歓声が大きくなった。
「おおおおお!噂通りのイケメン!!」
深結の感情も今まで以上に昂っている。僕はポンポンと肩を洸に叩かれ洸に顔を向けた。そんな洸は僕の耳元でボソボソと耳打ちをしてきたんだ。
「紡、ありゃ~イケメンだわ…男子でも惚れるんじゃねぇか…???」
洸の耳打ちに僕はもう一度、どれどれとイケメンに目を向けてみた。
「あ!こっち向いてくれた!!」
深結の言葉と一緒に軽音部のプリンスがこっちに目を向けてくれた瞬間…
「……えっ……///」
僕と目が合うプリンス…数秒の出来事だが時が止まり、僕たちは見つめあっていた…
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(紡…元気か…)
=====================
……ぐ
…むぐ
「…紡!?」
深結の言葉と洸が僕の目の前で手のひらをブンブンと振ってくれ、僕はハッ!と我に帰った。
僕はもう一度先輩に視線を戻したが、先輩も他の部員に肩を叩かれ、既に演奏の準備に移っていた。
「ご、ごめん。ちょっとぼーっと…」
僕はちょっと照れながら…でもなんだか切ない感じで深結と洸に返したんだけれど
深結・洸「…ほぉ~…はは~ん♪」
…ん?なんか2人変だぞ…?ニヤニヤしながらこっち見てくる…ぼ、僕の顔に何か付いてるの?僕はどこか慌てながら「な…何…!?」と返した。
「何って…なぁ?深結?」
「ねぇ???洸?」
2人でニコニコしながら、洸も深結も僕の顔を紅潮させる言葉を発してきたんだ。
「紡、一目惚れか?」
「あんなに見つめられたらドキドキするよぉ!」
からかっているのか、本気なのか分からない2人に「そ、そんなんじゃないって…!」と必死に返すしか出来なかった。か、顔が…熱い…。
でも…このぎゅっと掴まれる胸の痛みとどこか切ない気持ちはなんなんだろう…
それに…先輩と目があった時、なんで父さんが出て来たんだろう…僕はとても複雑な気持ちを感じながらも、顔の赤らみは少しの間、引かなかったんだ。
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