第六話


 ◇ ◇ ◇


「「……」」

「HAHAHAッ! 良くやるよっ、彼は!」

 中央にステージがある真っ暗な空間。ミリオンパンクの解説会場では、沈黙が降りていた。

 誰もがステージ上のディスプレイに視線を釘付けにしている。

 映像では教授風の男が、軽自動車の中でポリゴンを散らして消えていった。

 その後、映像先で大きな動きが無い事を確認されるとスポットライトがステージを照らす。

「珍しいモノが見えたね。キャミー?」

「なな、何が起きたみゃ~っ!?」

 アンヂーがニヤリと笑うと、キャミ―は両手を回して観客と共に騒ぎだす。

 だが一部の観客とアンヂーは、騒ぐ彼らを見て得意げな顔をしていた。

 有料会員である一部の観客とアンヂーは、既に種も仕掛けも見ていたのだ。

「ホズが突然襲われて、オノイチしゃんが裏切って、クレープスが瞬間移動したみゃぁ」

「おいおいキャミー。まるで映画のラストから、逆再生で見た様な慌てっぷりだな」

 キャミ―は何が起きたのかさっぱりだと騒ぐ。がアンヂーはスンとした顔で口笛を吹く。

 BROUUU、HAHAHAHAッッ!

 BEEEEPPッ  BEEEEPッ!!!

 二人が話す間も、観客席では喝采とブーイングが爆発していた。

 何が起きたのか喚く者。賭けに負けたと地面を転がる者まで様々だ。

「つまりは始めから、勝敗は決まっていたんだ……ゲーマーおなじみ。即死イベントだよ」

 仕方ないと説明をするアンヂーだが、例に漏れずキャミーは首を傾げる。

 アンヂーはン~と悩んだ末に、「情報収集クエストは?」と問いかける。

「えぇ~っ。キャミーは難しい事は、分からないみゃぁ~!」

「おいおいキャミー。ここは表のゲームじゃないんだぜ? 攻略情報は広く取らなきゃ」

 アンヂーが指を鳴らすと、ディスプレイが弾けて巨大化した。

 そして恒例の安っぽい絵柄アニメーションが流れる。

 恒例のカートゥーン調のモノクロアニメだ。

【どうやれば襲撃先の見取り図なんて分かるんだよぉ。えぇ~ん!】

【そんな貴方に情報収集クエスト!】

【システム画面から欲しい情報を選択。貴方の欲しい物がきっとある!】

【わぁい! あれっ、何も起きないや……】

【選択したら街をブラつこう! ドラマチックなクエストが君を待っているぞ!!】

【凄いやっ、映画の主人公みたい!】

【クエストに成功して、情報をGETだ!】

【これなら小学校で、身代金チャレンジができるね!】

【犯罪の手口も学べる最高のゲーム。ミリオン・パンクを今後もよろしく!】

 映像が終わると、観客席から拍手喝采が送られた。

 キャミーも拍手をして、その騒ぎに花を添えている。

 相変わらず悪趣味な解説映像だが、意外とファンが多いらしい。

「クエストで、ホズが死んだみゃぁ? 難しい情報収集の途中だったり~?」

「良い所に気づいたね、キャミー。一歩成長だっ!」

 照れ臭そうに頭をかくキャミーに、観客席から口笛の花束が飛ぶ。

 アンヂーも笑顔で頷いた後に、チッチッと指を振る。

「このゲームには、プレイヤー達にも有名なとある情報収集クエストが存在する」

 観客席全体がザワつく。この場に居るプレイヤー達も徐々に感づいた。

 何故なら、そのクエストは良クエストとして有名な訳ではなく、むしろ逆なのだ。

「このクエストを受けると仲間が殺される。オノイチ君が受注すれば、ホズが狙われる訳だ」

 つまりホズを狙った狙撃は全て、情報収集クエストによるモノだ。

 アンヂーの宣告にキャミ―はわなわなと震えながら怖がる。

「そのクエストの名は……」「そのクエストの名は?」

「護衛クエストと言う」

 BEEEEPPッ  BEEEEPッ!!!

 観客達がブーイングを響き渡らせ、ステージに中指を立てまくった。

 アンヂーはその様子に大爆笑。ソファの上でひっくり返る。

 だがキャミ―はまだ疑問が残っていた様だ。

「でもでも何で、『名手』のクレープスしゃんが瞬間移動したみゃ?」

「それを知るには、時間を半日戻さないと行けないな」

 アンヂーが指を鳴らすと、頭上のディスプレイが逆戻りする。

 映像は数時間前の、とある瞬間で停止した。

 オノイチが高級賃貸マンションに忍び込み、リビングで珈琲を飲んでいる時間だ。

 正確には彼が珈琲を飲みながら、何もせず一時間はぐうたらしてる時間だった。

「道化師が仕組んだ最高のマジック。その種明かしといこう」

「VTR、スタートみゃぁ~!」


 ◇ ◇ ◇ 四日目 午後二時 四七分


 俺は居心地の良いリビングで、美味い珈琲を飲んでいる。

 ベージュを基調とした高級賃貸マンションに来てから、そろそろ一時間が経つ。

 俺の膝が貧乏ゆすりを止めない。危ない橋を渡っている所為だろう。

 精神がヤスリで削られる気分だが、漸く部屋にチャイムが転がった。

 外から鍵が回され、姦しい気配が慌ただしくやってくる。

 俺は警戒しながら、リビングの入口脇で拳銃を構えて待つ。

「クレープスか? 遅かっ……」

「やっほぉ~っ! あれっ?」

 リビングに飛び込んできたのは、おっぱいだった……誰だお前。

 正確には白いポロシャツに零れんばかりの胸を隠した、赤髪ロングの見覚えのある女だ。

「なぁんだ。居るじゃんっ! ビックリしたじゃない。これ持って貰える?」

「凄ぇな、アンタ。日本なら一年は付き合いのある友達でもねぇと中々しねぇぞ」

 目の前の女は……記事にのっていた三人組の一人だ。名前はインメントだったか。

 彼女は猫科に似た茶目っ気のある笑顔を浮かべると、俺に袋を差し出す。

「ステイツならこのくらい常識よ。OK、ジャパニーズ?」

「OKOK。それならしょうがねぇな」

 俺が袋を受け取ると、インメントは「よろしい」と笑顔を浮かべる。

 可愛いから許しちゃう。これが不細工だったら聞こえないフリをしてたぜ。

 俺は冷蔵庫を開けると、袋の中のケーキやらお菓子やらを突っ込んだ。

 そして俺が漁っている所へ、新たな軽い足音がやってきた。

「もうっ、先に行かないでよインメント。あっお兄さん。こんにちわ」

「顔を合わせるのは三日ぶりやな、クレープス。お互いに無事で何より」

 振り返ると、居たのはやはりクレープスだった。

 彼女は相変わらずライダースーツの上に、オマセなトレンチコートを羽織っている。

 その顔立ちはあどけないのに、無表情なせいで余計にオマセな印象を受けた。

「お兄さんもね。昨日の夜、急にメールが来たからビックリしたよ」

 そう。実は昨日の夜、クローチェとアングイスに会った後でクレープスに連絡を入れたのだ。

 無視される可能性もあったが、内容が内容だからな。聞いてくれて良かった。

「ホズから寝返るから、奴を殺したら保護してくれなんて。無視出来ないよ」

 彼女が俺を見定める様に、無垢な瞳で見あげてくる。

 だが俺はいつも通り、陰キャフェイスでニヤつくばかりだったのだが……。

「ねぇ~そんな事より、さっさと座りましょうよぉ。つ~か~れ~た~」

 猫の様に自由なインメントが、ソファに背中を預けて足をバタバタする。

 クレープスは五歳は年上だろうインメントを呆れ気味にスルーして続けた。

「お兄さんごめんね。本当はボクだけの予定だったんだけど……」

「構わねぇよ。我儘ドラゴンが火を噴く前にソファに座ろうぜ」

 俺はそう言いながら、二人が買ってきたジュースとスナックを両手一杯に抱える。

 それにしても三人組は一人減って、その後に一人補充された筈だ。ソイツは来てないのか。

 クレープスは俺の視線に気づいたのか、申し訳なさ気に目を逸らした。

「もう一人はお兄さんがまだ信用出来ないって。インメントもみたい」

 だから一人は来ず、インメントは付いてきたと。仕方ない話だ。

 俺が気にするなと笑うと、クレープスは俺の背中の裾を掴んでポツっと呟いた。

「お兄さん……生きてて、良かったよ」

「へへっ、お互いにな」

 俺達はオレンジジュース、コーラ、三杯目の珈琲を飲みながら相対した。

 とはいえ三日目の夜に、寝返りの打診とホズの今までの動向はメールで報告済みである。

 俺とホズは元々敵だが今は味方。そして今から裏切る。

 つまり三人組に話す本題は殺す方法だ。どうやって最強のプレイヤーを殺すのかだろう。

「ぶっちゃけると護衛クエストだ。生還率0%な上に、俺が近づかなくても死んでくれる」

「でもオノイチが護衛クエストが出すかは、運じゃない?」

 そうなんだよ。情報収集クエストは、コネで調査したり殴り合いで聞き出すのが主流だ。

 方法によってクエスト内容は変わるが、そもそもクエストの内容はランダム。

 護衛クエストに出て欲しいと思っても、出るかは運次第である。

 だが俺だって裏切る以上、準備とプレゼンは整えてきた。

「金に飽かせて、ギャング共を動かす。それでクエスト発行の試行回数を増やすつもりや」

 俺は懐からホズより受け取ったお小遣いを並べる。

 そして俺の蝦蟇口財布を出して、全部逆さにひっくり返す。

 『扶持』特化にしたら端金だが、普通のプレイヤーにとってはそれなりの金額が集まった。

「一万ドルと俺の全財産。今日が終われば、金は補充されるからな。全部ブッ込むぜ」

「賭金はあるのねぇ……それでも足りなかったら?」

 俺はメガネの位置を指先で調整して薄く笑った。

 どうやらこの二人はギャンブルを余りやった事が無いらしい。

 ギャンブルで負けたら、やる事は一つだろ。机を蹴っ飛ばしてダイスを振り直すんだよ。

「俺のスキル。『一般人の声援』を使って、倍ドンや」

 インメントが食っちゃ寝ばかりしてる、ナマケモノを見る目で俺を見てきた。

 『一般人』である俺に、哀れみと希少性を感じているのか。

「運、運、運……結局、運になるわねぇ」

「考えてみろよ。お前らからすれば、待ってるだけで奴を殺せるんやろ?」

「うぅ~ん。その事なんだけど……」

 インメントが何かを言おうとするのを、クレープスが手で制する。

 分かっちゃいたが、信用が無いな。

 まぁ構わん。今は俺が組むに値する相手か、営業をかけてる段階だ。

「お兄さん。失敗したらどうするつもり?」

「知らぬ存ぜぬ。俺は情報収集を続けても怪しまれないから、五日目以降に賭けるさ」

 俺は彼らにとって、これ以上無い条件を出したつもりだが反応は芳しく無い。

 クレープスは悩み、インメントは話が纏まるなら言ってくれそうだ。

 俺も何故彼らが悩むのか聞かないと、妥協点が探れないから譲るつもりは無い。

 暫く待つとクレープスは溜息をつき、隠していた事を明かしてくれた。

「ボク達がホズを狙う理由は、最終日に大暴れされてゲームをひっくり返されない為なんだ」

「ぁ~、成程なぁ」

 三人組がホズを狙う理由として、想定していた一つだ。

 最終日には人数が少なくなり、そうすればホズを止められる奴は居なくなる。

 そうなればゲームの行方は、ホズの気分でひっくり返されちまう。

 仲間であっても、警戒に値する理由だ。だからその前に殺すと。

「お兄さんはホズが強いから組んでいる。ボクらは強過ぎるから殺したい。その為には……」

「残り人数が多い内にチームを組んで狙う。それなら俺の案に頷けないのも分かるぜ?」

 俺が裏切って六日目まで情報収集をサボれば、恐れていた通りになる。

 人数が減った所に、ホズが大暴れしてゲームセットだ。

 クレープスは俺をチラ見しながら、申し訳なさげにチーム内の実情も明かしてくれた。

「お兄さんの提案は魅力的だけどね。ボクらに払う代償は無いし、仲間も一人増える」

「結局。オノイチに信用が無いのが悪いのよねぇ」

 ケロっとインメントが本質を突いてきた。

 実際その通りだ。これが元々味方だった奴なら、二つ返事で頷いてくれたのだろう。

 だが俺はケセムからホズに乗り換えた裏切り者で、更にもう一度裏切ろうとしている。

 俺なら絶対にチームに入れないし、利用するだけして殺す事も考えるな。

「オノイチがホズを裏切る理由が分からないのよ」

「言っても理解できっかなぁ……まぁ、義理立てだよ。後は死にたくないからさ」

 インメントがここに来た理由が何となく分かった。

 信用の無い俺が嘘を付いた時、俺に何故か友好的なクレープスが絆されない為だ。

 だから俺は意味が無いだろうなと思いつつ理由を話した。

「お兄さんが生き残るだけなら、ホズと組んだ方が良いんじゃ……」

 そらぁね。死にたくないから、ケセムが死んだ直後に寝返った訳だし。

 だけど別に二番目の目標が無い訳じゃないんだ。

「……ダチと約束したんや。絶対にホズを殺すって」

 俺はケセムに、護衛を頼んだ。

 見返りに俺は、ホズのアニキを殺す事を約束した。

「だからオノイチは、ホズに寝返ったフリをしたって?」

「寝返りはガチ。お前らが現れなかったら、ホズとクリアを目指したで?」

 だけどホズを殺す手段が、偶然俺の手の中に転がり込んでしまった。

 そして殺した後に三人組に保護して貰えれば、四人チーム……生き残る目は高い。

 後は俺が裏切るか裏切らないか。俺とホズの運はどっちが上かを争うになる。

 俺が裏切った動機を聞いた二人だが、真反対の反応を見せた。

「……ジャパニーズの考える事は良く分からないわね」

「ボクは逆に、納得出来たかな」

 インメントは裏切ったなら相手と協力しろ。と思ってるんだろうが、悪感情までは無い。

 クレープスは今の説明で、少し納得してくれたようだ。

 まぁ中途半端なコウモリ野郎だと思って下さいな。

 それに結局、信用できるかは半々って所だろう。

「ココに居ないシンジョーも含めれば信用が一、不信が一。中立が一って所ね」

「それならボクが、お兄さんにつこうか?」

 俺とインメントが腕を組んで唸っていると、小鳥のさえずりにも似たあどけない声が飛んだ。

 クレープスが片手を小さく上げていた。

 彼女は俺を見ながらマグナムをチラ見せしつつ、インメントに提案する。

 その内容とは彼女が監視員について、情報収集クエストを進めさせるという物だった。 

「それにボクならお兄さんから不意打ちを受けた後でも、絶対に殺せるよ」

「確かに『名手』のクレープスなら、『一般人』に負けないわね」

 おっ、事実は人を傷つけるって事を知らないのかな?

 問題はウルトラC的解決法って所だな。

 それに俺一人で情報収集クエストをするより、クレープスに手伝って貰えた方が良い。

「それは良いけど、裏切り対策として甘いわね……」

「それ言われちまうと、もう何も言えねぇって」

 今も現在進行形で裏切ってるからなぁ。俺が裏で何かするのを止める方法は無い。

 クレープスが監視につこうが、欺く手段は多少思いつく

 俺が唸っていると、インメントが悪戯好きな猫の様にニチャリと笑った。

「あら? 『隷属』があるでしょう?」

「あぁ~~」

 確かに同性間の『隷属』は難しいが、異性間の『隷属』には簡単な方法がある。

 お互いに好感がある男女が、長時間一緒にイチャイチャすれば良い。

 『隷属』の条件は、言っちまえばドキっとさせれば良い訳だからな。

 だがここで問題がある。イチャイチャとは一人で出来ない事だ。

「……お兄さんと、誰がやるの?」

「クレープスが付くんだから、クレープスがやるに決まってるでしょ?」

 えぇっ!?と驚くクレープスに、インメントが我慢しなさいと肩を叩く。

 外国にも告白罰ゲームってあんの? 押し付け合い見るの辛ぇんだけど。

「アタシでも良いけど。両手に花でも楽しむ? ねぇ、オノイチ?」

 告白罰ゲーム……ゥっ、頭がっ!

 俺が小芝居を挟んでいると、クレープスが上目使いでインメントを睨む。

 クレープスは胸元のマグナムを指先でコツコツと叩いて、何度か独り言を呟く。

「ボクは『魅力』も低いし、デートとかした事無いから……お兄さんがつまらないでしょ」

「おっとクレープスみたいな可愛い子とデート出来るなら、喜んで行くぜ」

 俺は日本の草食系男子だが、ゲーム中は別だ。ロールプレイの一環として楽しめる。

 モチモチ頬を赤く染めたクレープスが、「分かったよ。デートね」と俯きがちに呟いた。

 俺とインメントは初々しい少女の姿に、思わずニヤニヤと見てしまう。

 本当に初心だなぁ……『魅力』も低いだろうけど素だろうなコレ。可愛い。

「まぁクエストが出た所で、ホズが本当に死ぬか分からないからなぁ」

「死ぬでしょ。護衛クエストから生き残った話なんて、聞いた事無いわよ?」

 俺もクエストで死ぬとは思ってる。だが失敗した時の事も考えなきゃイカン。

 完全な虚空から完全な不意打ち狙撃。それがひたすら続いて無傷な筈は無い。

 ここで戦闘職『名手』のプレイヤー。クレープスが貴重な意見をくれた。

「護衛クエストは只の狙撃だし。ボクなら少しは耐えられるよ」

 だが間違いなく消耗はする。つまり問題は仕留めきれなかった場合だ。

 瀕死のホズにクレープスが立ち向かっても、『殺人鬼の盾』で殺される可能性がある。

「腹はくくったぜ。ホズが生き残ったら俺が行く。クレープスは手伝ってくれ」

「クレープスは近距離での銃撃が得意だし、狙撃は勿体ないわね」

 クレープスの武装を見る限り、近距離からの銃撃戦を得意とするビルドだろう。

 かといって油断しているホズへの、背後からの不意打ちも捨てたくはない。

 つまり不意打ち後にクレープスを近距離に呼び寄せる方法……あるんだなぁ、これが。

「『お隣さん』を結ばねぇか? クレープス」

 パーティメンバーかフレンドを召喚するスキル。それが『お隣さん』だ。

 俺が不意打ちを噛ました後に、『お隣さん』を発動すれば、クレープスは俺の元に現われる。

「ボクは構わないよ。コイツが当たる距離なら、『殺人鬼の盾』の対策もある」

 クレープスは相棒のマグナムの撃鉄を小気味よく叩く。

 戦闘職のクレープスは銃撃戦の知識も経験も俺より上だろうが……あるのかそんな方法?

「どんな方法や? 俺も死にたく無ぇから教えてくれ」

「一度だけ跳弾で弾道を変える『予想外の大当たり(JACK POT)』を使う」

 俺との初対面で、コンビニに突っ込んで来た軽トラをぶっ壊したアレか。

 だが弾道を変えたとして、本当に上手くいくか?

「『殺人鬼の盾』は自分への攻撃は弾けるけど、態と外した攻撃は別なんだ。別方向に跳ぶ』

 そして的から外れた弾丸を、『予想外の大当たり』の跳弾で次は急所に……か。

 いけ、いけ……行けるか? 整理しよう。

「俺が護衛クエストを、金をバラまいて無理矢理発生させる」

 ホズが護衛クエストの猛攻を受ける。恐らくここで死ぬ。

 俺が指を折ると、インメントが俺とクレープスを指さして引き継いだ。

「死ななかった場合、オノイチとクレープスで仕留めに行く」

 その為にも可能な限り、俺が不意打ちで削る。

 出来れば俺が姿を現す前に一回。姿を現して接触してから一回ずつ。

「更に仕留めきれなかったら、お兄さんがボクを『お隣さん』でワープ」

「『殺人鬼の盾』で勝てると思い込んだホズを、クレープスのスキルで狩る」

 油断させる為に俺一人で近づかないといけない。ギリギリまで召喚は無しだ。

「ホンマに出来る? ガバガバ作戦じゃない?」

「オノイチがやるって言ったんでしょっ!! 交渉は決まったんだからやる!!」

「ボクらとしても、嬉しい誤算だったし……是非決めたいよね」

 俺がホズを殺した時点で保護されれば、最大勢力になるしな。

 チームカラーとか後の事は、後回しでも良いだろ。

 俺は一安心した所で、珈琲をすすり深い苦みを口の中で味わう。

 これから一生感じる人殺しの苦味に比べれば、甘いくらいだ。

「ホズが瀕死だったら、ボクが狙撃して終わりでも良いんじゃない?」

「……いいや。その時でも俺が出るわ」

 それだけは譲れない。俺の断固とした意思にインメントが反応した。

 インメントはソファに寝っ転がりながら、頬杖をついてポテチを囓る。

 彼女を見下ろす俺と目線が交差し、俺が譲らない事を知ると興味深そうな顔をした。

 俺みたいな臆病で卑怯な男が、自分の手で殺す事に拘る理由が知りたいのだろう。

「へへ。ホズと飯食ってお茶飲んで、ゲーム攻略について喋ったからよ」

 友達を赤の他人に殺させて、たまるかよ。

 殺すなら俺の手で殺さねぇとな。

「俺はホズに報告してくるわ、合鍵くれ。三十分はこのマンションに誰も近づくなよ」

「うん……先に行っててねお兄さん」

 何でよ? 途中まで一緒に行って、護衛して欲しいんだけど。

 俺が首を傾げてるとクレープスは顔を俯かせてもじもじしている。

 インメントが怒る様に、拳をあげて叫んだ。

「女の子には準備があんのっ! オノイチは駆けあ~し」

 ガチデートやんけっ、それならしょうがねぇなっ!

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