第6話 かっこいいとこ見せてやる
「なるほど、こうやってきるのか」
ミーアに教わったお陰で、まず1本目の木が切れた。
どうやら、木ってやつは斧でそのまま切るんじゃなくて、切れ込みを入れて倒すらしい。
それを聞いたときは目から鱗だった、これだから知らない事を知る喜びは何者にも換えがたいのだ。
「アッシュ、木は切ってもすぐは使えない。一回乾かす。だからとりあえずどんどん切る」
「お、おう……」
どんどん切るのはいいが、これ運ぶのも大変だよな……
更に細かく切るのか?
などと考えながら切っていると、目の前で信じられない光景を目撃する。
なんと、ミーアが切った木を引きずって運んでいた。
「ミ、ミーアさん。それ重くないの?」
「重いけど、まだなんとかなる」
「ほ、ほう……」
ミーアと喧嘩するのはやめようと思った。
* * * *
家を修繕するのに十分な木を運んだ僕たちは、次に食料を探す始める。
ちなみに、僕が最初見つけた食べれそうなものは、食べれないものだろ言う事が分かったので全部捨てた。
ミーアの知識は確かなもので、的確に食べれるものを探し出し、次々に食料が集まってくる。
正直、悔しいがミーアの力がなくては、1ヵ月なんて期間を生きることはできなかったと思い知らされる。
「もしかして、リドリーはここまで分かってたのか?」
思わず、空に向かって言葉を溢す。
それぐらいに、一連の出来事は出来すぎていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……それより、トイレってどこにある?」
「……どっか、その辺ですれば?」
「いや、それはちょっと抵抗が……そういえばミーアはどこでトイレしてるの?」
「教えない」
「ま、まあいいけど……」
村にトイレなんかあったか?
流石にその辺でするのはなぁ……。
後で探してみるか。
「トイレのついでに、お風呂はどこにあるの?」
「お風呂なんてものはない。適当な水場で洗うだけ」
「で、ですよねぇ……」
とりあえず、水の確保もするので体を洗う場所へと連れて行ってもらう。
「おお」
その場所は、木々のない開けた場所になっており、川が流れている。
さらに、川の途中が小さな滝のようになっており、自然のシャワーのようだ。
滝の下には小さな、池のようなものが出来ており、泳ぐぐらいは出来るだろう。
「結構、景色もいいな」
「うん、綺麗で落ち着く場所」
「ちょっと、汗でも流すか」
僕は、持っていたハンカチを濡らして、肌の露出した部分や、顔周りの汗を適当に拭く。
「ミーアも使うか?」
ミーアは僕の言葉にキョトンとしていたが、すぐに自分の体を見る。
そして、手を伸ばしてきた。
「……使う」
「おう」
僕が、ハンカチを渡すと同じように体を拭き始める。
別にやましい気持ちはなかったのだが、ずっと見つめてるのも悪い気がしたので、僕は視線を外して、適当に周囲を見渡す。
「思ったより静かだな」
水の流れる音や、風で木が揺れる音がするが、僕が今までいたような生活感を感じるような音は全然しない。
むしろ、心地よい音が僕の耳をくすぐる。
「終わった。ありがとう」
声がして振り返ると、そこには綺麗になったミーアがいた。
やはり、汚れていたときから可愛いとは思っていたが、綺麗になった彼女はもっと可愛く感じる。
それなりの服や、化粧をすれば貴族でも中々いないんじゃないかと思った。
まあ、あんまり比較対象がいないので、あくまで僕の推察でしかないが……
「髪も切ろうか?」
ミーアの髪はあまり手入れが出来ないのか完全に伸びきっている。
いま少し、洗ったのだろうがかなり痛んでいるようで、艶もない。
髪の手入れは今は出来ないが、短く切れば少しは見栄えも良くなるだろう。
「切れるの?」
「まあ、それなりにだけど」
「でも、道具がない」
「ナイフ1本あれば、大丈夫だ」
「……ちょっと不安」
「まかせろって」
なぜかこの時、変に自信があった。
僕は、ミーアを水辺に座らせて、下を向かせる。
水面が鏡のようになって、反射で髪を切る様子も見れるので、少しは不安も和らぐだろう。
「いくぞー」
「うん……」
あまり切りすぎると、首周りの露出が増えるので、首周りが隠れる長さで、適当に真っ直ぐ切る。
不思議と自分でも驚くほど、綺麗に切り揃えられた。
口に出すと、なんか言われそうだから言わないけど……
「どうだ?」
「……器用なんだね。ありがとう」
「まあな」
とりあえず、髪が綺麗に切れたのでよかった。
「さて、行くか」
僕たちは水筒に水を入れ、その場を立ち去ろうとした時に、不意にミーアが声を上げた。
「まずい! 隠れてアッシュ」
「どうし――むぐっ――」
いきなり口を押さえられ、その場に伏せさせられる。
訳も分からないまま、視線だけ動かすと、ミーアはしきりに空を気にしているようだった。
「ガアアアアアっ!」
突然の雄叫びと、同時に空に現れたのは、鳥のようにも見える影。
太陽の光で、細かい姿は分からないが、かなりの大きさだ。
「静かに」
ミーアが耳打ちしてくる。
息が耳にかかってくすぐったい。
「あれは、
くすぐったい。
おっと、違う、違う。そうじゃなかった。
「要は、でかくてやばい鳥だろ?」
なんか悔しいので、猫耳に囁いてやった。
「ひゃん……やめてぇ……耳弱いのぉ……」
囁きは僕が思っている以上に効果がありすぎたようで、ミーアは飛び上がった。
そして、当然ながら
「頭を下げてて!」
と言われたのだが、こういうときは先に迎え撃つほうがいいので僕は魔術を使う事にした。
初歩的な魔術の1つ……
地面に高速で書き記すのは、火属性の陣。
丸を描き、その中に、いくつかの記号を書き入れる。
炎を纏いし、巨大な壁。
「灼熱の
描かれた陣が赤く輝くと同時に、僕たちの目の前に大きな燃え盛る壁が現れ、鳥からの攻撃を遮る。
それだけではなく、壁にぶつかった鳥たちは、炎に焼かれ、その身は焼きあがる。
響く断末魔が、聞こえなくなったところで、僕は壁を消した。
「ミーア、大丈夫だったか?」
蹲るミーアに声をかける。
「え、あれ……
恐る恐る、顔を上げるミーアをよそに、僕は、それっと指をさす。
指差された方向を見る彼女の目の前には、焼き焦げた鳥の丸焼きが何個か転がっていた。
「ど、どうやったの?」
「ん、ああ魔術だよ」
「ま、魔術? もしかして魔術士なの……」
ミーアの声は、震えていた。
「ちが――ぐべっ!」
僕が否定しようと言葉を発し終わる前に、僕の体は数十メートルは宙を舞っていた。
多分、落下したら死ぬんだろうなー。
などとのんきに考えている間に、僕の体は地面と熱い抱擁を交わした。
「がっ……がほ……」
地面に叩きつけられた衝撃で、肺の空気が全部外へと漏れ出した。
背中から落ちたから、あばらの骨は折れてないと思うが、背中の骨が怪しい。
「ご、ごめんなさい……」
慌てて駆け寄ってくるミーナ。
その目は、信じられないほどの涙で濡れていた。
「あ、まあ。ぼ、僕もふざけたから、お、お相子ってことで……ただぁ、ちょっと強烈すぎたかなぁ……」
僕がかっこよく男気を見せたところで、また視界が真っ暗になって。
意識が頭の奥へと沈んで消えた。
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