第01朝 初めての晩餐という名の無自覚な復讐
――
良く言えば優しく、悪く言えば甘い。
かつては
「おはよう。私の新たな家族」
「……? おなか、すいた」
起き抜けに腹が減ったと伝える誕生したばかりの赤子の獏夜に、彼は満足そうに嗤う。
人としての記憶を失いぼんやりとしたままのヨウの手を、ハツゾメが引いて歩く。
そうして彼らがやってきたのは、ひとりの女の夢。
交通事故に合ったことで車椅子なしには動けなくなってしまった恋人を見捨て……その前から浮気をして恋人を裏切っていた女だった。
ヨウが近づくと彼女は泣いて許しをこう。
このときただ人間を捕食対象としか見ていなかったヨウは、なぜ彼女がそのような態度を取るのか理解できなかった。
いや、陽太であったことを忘れてしまった獏夜には、この先も理解することはできないだろう。
幸福な夢は美味だとハツゾメに聞いていたというのに、彼にとって彼女の
女の夢を食べた途端、前よりもひどく餓えを自覚したヨウはハツゾメに懇願する。
「まだ足りない。もっと食べたい」
「ああ、もちろんお前が満足するまで付き合うさ」
ヨウが次に連れられたのは、ひとりの会社経営者の男の夢。
交通事故に合い在宅で働くことを求める若い社員を彼は軽く切り捨てた。
男もやはり、女と同じように怯え誰かに向かって謝罪をする。
男の夢も、女の夢と同じでヨウにとってはなぜかとても不快な夢だった。
だからこそ、彼の空腹はまだ満たされない。
心の底では「これ以上痛みを感じたくない」と何かが叫んでいるようにも感じるヨウだったが、飢えを満たそうとする体はその声を聞き流す。
ハツゾメはまるで雛鳥に餌をやる親鳥のごとく甲斐甲斐しく餌をやり、狩りを教えてゆく。
次は飲酒運転をして交通事故を起こしたトラック運転手の夢。
「また、交通事故の関係者だね」
「ああ、そうさ。よく気づいたね。偉いな、お前は」
ハツゾメがあえて彼にそれらの夢を喰わせていたことに、ヨウは気づかない。
こうして夢を喰らい続けたヨウが獏夜として成長し安定したころ、彼は食事後に呟いた。
「なぜだろう。食べたのにまだお腹が空いたよ。それにもう、お腹がゴロゴロする夢は食べたくないな……。もやもやして気持ち悪いんだ。美味しい夢なんて、本当にあるの?」
「それはお前の喰った夢の質が悪いからかもしれないな」
「質の良い夢をぼくも食べたいな」
「獏夜のお前には
「うん。ぼくも美味しい夢が食べたいよ」
「ああ。食べておいで」
ハツゾメに見送られたヨウはひとり、ふらりと夢の世界を裸足で歩き出す。
「きっとお前の弟の夢が、最高に美味いだろうからね。ははは」
彼にハツゾメの呟きは届かなかった。
こうしてヨウは朔夜に辿り着く。
彼の求める、最も幸福な夢を本能のまま嗅ぎ分けて。
だから、これは……。
夢の中で獏夜となって間もないヨウと、陽太が行方不明となり絶望の最中にいた朔夜が出会ったことは……彼によって仕組まれたことだった。
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